ふたひらの雪

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ふたひらの雪

 初めての入院の時はみんなではげましの寄せ書きを送った。  お返しに、と、大変なはずなのに手作りしたグミキャンディを母親が届けてくれた。  現在は入退院をくりかえしているが、時々調子の良い時にお菓子を作っては工房に顔を見せに訪れるのだった。  今日のはバナナの入った紅茶風味のマフィン。  ちゃんとお菓子の味がした。  命をもらう味がした。  イオタは飲み込んで窓の外を見る。  雪が降っている。  どうぞこの命のかけらをくださった方を、できるだけ長く地上に護ってください。  アルマはそろそろ、平気な笑顔を見せていても体の機能が衰え始めているのだと云う。  拒食症とは、食べられない病気。  生きていたら体に必要な燃料が、ほとんどと言っていいほど摂取できない病気。  燃料が、つまりエネルギーが得られない体がどうなるかと云えば、衰弱してく、体が、痩せてゆくゆるやかな餓死の状態に近づいてゆく。  血流の不良により心臓停止の危険、腎機能だって正常な働きがなくなる、せめて点滴をしようとも痩せた血管が細くなりすぎて針が刺さらない。  そもそも、点滴、と云う形であろうと、養分摂取を拒む。  太るから。  そんな可能性、何よりも拒否したいから。  命にかかわるほど病的に痩せた体で、どんな明日を求めているのか、私たちは。  成されたことがヒトの記憶からも機械のメモリからも消えても、星すら消えても、宇宙のどこかにはひとつひとつがさざ波のように寄せて何かへ至るそのシステム。  私達は魂だ。  有ることも無く無いことも有り、始まっても終わってもない宇宙で浮遊する魂だ。  それが今、この地球に降り立ち、命として世界にあかしを築いてく。  なにかをね。  にしてもね。  生きるギリギリの摂取とは云えど、毎日毎日食べれば食べるほど、時間がたてばたつほど体に蓄積されるカロリーは小憎らしい。  一日の総摂取カロリー守れば毎日食べても大丈夫。  太らないよ。  でも一時的に体重の増える何か食べること、肯定しきれんねェ。  とか考えながらもポッキー喰ってた午後の休憩時間。  ひと箱にふた袋入りのやつ、ひと袋で終えときゃカロリー大丈夫だから食べる。  飲み物だってグァバ茶だ。  イオタは目のまえ、ポッキーわけっこしたマーレと談笑する。  このヒトといっしょだと、食べるの心軽い。  うすらピンクのポッキーは期間限定のさくらんぼ味で、かわいらしい味がするよ、と、マーレがそんな概念を喜捨してくれた。  食感だけ楽しんでいたイオタに。  安定してる日はそんなもんだ。  が。
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