みつひらの雪

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

みつひらの雪

 予定はずれについ食べちゃった日のイオタの夜は、地獄だ。  なんで食べたの食べたのなんでなんで食べたの?  食べるなよ太るよ太るよ食べなきゃよかったのになんで食べたの?  食べたの?  食べたの!?  もとにもどるよまた太るよ人生終わるよ!!  泣き叫ぶ、己の体を見る入浴時間。  ちっとも太ってないのに。  ちゃんと瘦せ型なのに。  怖い。  今でいいのに。  でも自分はイオタを責める。  食べちゃった自分を責める。  脳を掻き出そうか心臓えぐろうか歯を砕こうかどうしたら私達はこの業病から解放され、安心して食べる行為ができるのでしょうか?  魂は私個人のモノだけど、心や脳は、体すら、神さまからの借りモノな気がしてならない。  それをだいなしにするなんて、なんてこと?  やっと落ち着いた深夜のこと、イオタは指にはめたビーズリングを、天井からの灯りできらきらさせていた。  痩せた指によく似合う、大好きな青色の透きとおったビーズのとくに大粒は、光の角度によって虹みたく多彩な可能性を見せる。  アルマが工房で作った商品で、ちゃんと定額支払って買ったもの。  ルマさん本人も、こんなふうに輝いて、またあの笑顔を見せてくれますように。  イオタは眠剤を飲んで、大好きな柑橘系のアロマ纏って寝付いた。  雪と踊って、風に雪解けの気配を感じて、ほら、おひさまあったかいね。  食べて笑って泣いて朝起きて夜眠って、人間らしく生きてゆく。  工房でお仕事お仕事。  喰ってく免罪符得るため訓練する。  そんな日々のうちイオタは、半年に二,三度の喫煙のため工房から外へ出た。  晴れてる。  空だ。  青いよ。  羽織った上着は冬物でも、風にふかれると羽根のように揺れた。  す。  つめたいモノが体浸す。  煙草。  煙はあっというまに消えてゆく。  ここんとこアルマの調子が本格的に大変だと聞いていた。 『ルマさんの素敵な笑顔、また見せてね』  そんなふうにイオタは書いた寄せ書き。  ほんとう、またあの笑顔が見たい。  同じ病気を背負ってて、それが重度で、でも生きてるアルマはイオタにとって崇拝対象に近い。  そのアルマのお菓子を、そう云えば最近食べてないことに気づきイオタの胸が今さらながらこそ、陰った。  煙草が短くなったので、携帯灰皿に押し付け工房に戻る。  空気がなんだかおかしかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!