魔女見習いはじめました

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『しばらく前までは弟子がいましたが、今はあなた一人ですよ』 「今は?」  安心していいのか不安な返答はやめてほしい。 『三人ともそれぞれの任務で遠征中です。ダークエルフとサキュバスと……』 「……と? まだいるのか?」 『んー。彼に関してはあなたになんて説明すればいいのか。適切な言葉がチャンネル内にないので■●◆▲としか』  なにか、聞き取れない言葉が聞こえた。いや、適切な言葉がないってことなら、認識できないってことなのか。 『その判断で間違いありません。彼は顔を合わせたときにピンと来ると思うので、その時のお楽しみにってことで』 「三人の特徴とかないのか。向こうは顔見知りでも、俺は初対面だ」 『有り体に言えば、短気な野生児と本の虫と脳筋です』  まるで属性のバーゲンセールだな。本の虫のサキュバスってのはなかなか聞いたことがないが。 「なあ、ずっと気になっていたんだけど、チャンネルって何?」 『こちらの世界とあなたがいた世界の言語を含めた認識形態の互換性のことです。私の言葉、はじめはわからなかったじゃないですか』  はじめというのは、夢の中のことか。確かに、最初は聞いたことのない言語だったのに、いきなり言葉が認識できていたな。 『(セカイ)そのものが違うので言語を形成した歴史が違います。もちろん文明も違う。あなたがいた世界で当たり前だったことがこちらでは異常であり、逆もまた然りです。チャンネルとは、あなたのような転生者の認識レベルを調整する役割があります』 「だから会話ができているってことか。さっきの形容できない弟子ってのは、俺がいた世界には存在しないってことか」 『そうなります。あなたがこの世界に慣れれば、なんとなしに理解はできるはずです。ですので、今後のお楽しみってことで』 「楽しみ、ねぇ……」  変なことにならないといいが。誰もいないってことがわかったのならさっさと部屋に戻って着替えを済ませよう。  浴室を出て、二階に通じる階段を目指す。建物の作りは木材とレンガってところで、薄暗い廊下には照明らしきものはない。風の通りは良さそうではないが、けれど湿っている様子もない不思議な造りだ。  歩くたびに軋んで小さく鳴く床材は、古い建物の廊下を思い出させる。鳥の鳴き声のように鳴る様が心地いい。  階段を登り、先程飛び出した寝室を目指す。どこに着替えがあるかはわからないが、自室っぽいしそこから探そう。  寝室の扉を開く。女の部屋だと思うとまだ緊張するが、生唾を飲んで中に入った。 「ん……?」  違和感を覚えた。すっ転んでテーブルを倒し、腐った卵のような臭いのする薬品をひっくり返したのに、部屋の中は綺麗なままだ。臭いどころか、倒れたテーブルも直っている。
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