人助けの魔女

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「……y, yaghiey」  ――なにか聞こえる。聞き馴染みない言葉だが、か細い女のような、そんな声。 「nrary von feaps. khi……kouri……korekana……。A……アーアー。キコエマスカ?」  なんだ。聞き取れる。ついさっきまで、まったく聞き覚えのない言語だったのに、いきなり認識できる状態にシフトした。 「あー。これだこれだ。もしもーし、聞こえますか? 聞こえてますよね? 無視しないでください」  なんだこれは。いきなり話しかけられて無視をするなと言われても困る。一般的な社会性があるのなら、見ず知らずのやつの言葉に耳を傾けるほど、人間性は腐っちゃいない。 「自殺しようとしていたくせに何をぬかすと思えば。性根が腐ってるのに生意気ですね。そのまま死なせますよ?」  断言しよう。こいつは悪人だ。きっと鳴き声がうるさいからといって隣人の犬すら無表情で殺すくらい極悪人だ。 「偏見がエグいですね。ひねくれすぎです。……けど、気に入りました。チャンネルも繋がっていることですし、どうでしょう。私の話を聞いてくれませんか?」  今から死のうと、いや、死んでいる最中の人間に何を聞けというのか。時間の無駄だ。 「聞くだけなら損はしません。むしろ聞かないで死んだら損です。損は悪です。絶対に損はさせません」  詐欺が下手だな。ド三流だ。いや、それ以下か。三流だってもっとマシな言葉を並べるはずだ。 「本当のことを伝えるのに無駄な言葉を積み上げるほうが口下手ってものです。真実の言葉はココロに響きますから」  胡散臭さが二割増しだ。もう死んでいいかな? 「あー。交渉決裂ですか? なら、あなたのこと、私の好きにしてもいいですか? なんなら人助けだと思って、?」  ……何いってんだこいつ。そもそも姿も見せないやつのために死ねるか。俺は自分のために死ぬんだ。 「自分のため? ちょっと何言ってるのかわかんないですね。けど、投げ捨てるなら、拾われても文句は言わせません。私もちょっと立て込んでるんです。人助けだと思って、ね。ちょっとだけ、冒頭(さきっちょ)だけでいいから」  それはバカがバカにいうセリフだ。人をバカにするな。勝手にチャンネルだとかを繋げてピーチクパーチク喚くな。 「あ。私のことバカだといいましたね。頭にきました。もういいです。人の親切を無下にするなら勝手にします。あなたには――」 「――になってもらいますから、覚悟してくださいね。異世界の住人さん」
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