魔女見習いはじめました

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「いててててて」  結局ほとんど脱げず、着衣のままシャワーの蛇口をひねると、頭上から大粒の水が大量に降ってきた。 「いたいしみるつめたい! お湯お湯お湯どれ!? てか水滴でかいな!」  水で視界が霞む中、目の前に掛けられたシャワーヘッドを睨むも、――あれ、水が出てない。けれど全身を叩く水は無駄に水滴が大きい分、重みがある。  体の痛みはまだあるが、冷たさに押しつぶされそうだ。一度シャワーから離れ、冷えた身体を擦りながら浴室内を観察すると、―― 「て、天井から水が落ちてる!? なんだコレ!」 『私自慢の天蓋雨です。どうです、すごいでしょう。なんせ全身を包むように水が降ってくるのでリラックス効果抜群です』 「ソウカスゴイネって言うと思ったか! 滝行かと思ったわ!」 『温度調整を間違えたのはあなたですよ。私のせいではありません。この家の浴室、あなたの世界のものを参考にしたんですよ。知りません? 高級宿にあるものです』 「俺、貧民だもん。知らないよそんな……」  滝のように落ちてくるシャワーを避けて、蛇口を調節してぬるま湯に整える。全身を一瞬で濡れ犬にした天蓋雨なるものを見ながら、なぜか体がスッキリしていることに気付いた。 「なんだろう。すこし気持ちいい……」  以前、こういう感覚に一度だけ浸った気がする。急な暑さと冷たさで自律神経を無理やり整えたような……。 「あ。サウナだ、これ」  体にかかった薬品で無理やり体温が上がって毛穴が開き、冷水で引き締め、そこから出たことで脳内麻薬的なのが溢れ出ていた。 『お。こころなしか肌の色が良くなりましたね。ふむ。失敗作でしたが、こんな効能があったなんて驚きです。コレは使えそうですね』 「おい。結果的に人体実験になってるぞ。……まあいいや。服を着たままってのも変な感覚だけど、どうでも良くなってきた」  ……顔は見えないが、元魔女はきっとニヤついてるんだろうな。そんなこともどうでもいいくらいの心地よさに、好みの温度に調節されたシャワーを全身に浴び、体についた薬品を緊張とともに排水溝へと洗い流した。
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