魔女見習いはじめました

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 程なくして体温も上がり、浴槽にもお湯を張って浸かることにした。  濡れたことで全身に張り付いた寝間着を脱ぎ、白い肌があらわになる。産毛すらないようなきめ細かい肌が水を弾き、指先まで滑らかな曲線で、その上で胸とお尻だけは存在感がある。  金色の猫脚がついた白い大きな浴槽に入り、手足を伸ばす。水面に浮かぶ二つのそれが嫌でも目に入る。今の自分の体なのに、自分じゃないみたいだ。 「……」 『あらあら。照れてるんですか? 初心(うぶ)ですね~。耳まで真っ赤ですよ』  茶化しの声にツッコめないほど、顔が熱いことがわかる。火照りとは違う感覚。 『コレ、もじもじしないの。あなたの股にはもうないものです。言ったでしょう、自分に欲情するものではありません』 「し、しないよ……。なんせ、お前が隣にいるんだ……」 『いなければするんですか?』 「バッ……しないって!」  思わず浴室のお湯を手で掬って外に出す。かける相手もいないお湯が浴室に飛び散り、排水溝へと吸い込まれていった。 『ふふふ。可愛いですね、ナカムラさん』 「……いま、その名前で呼ぶなよ」 『ふふふ。意地悪はコレくらいにして、私からアドバイスです。今のうちにこの体に慣れてください。どうせ体も洗うんです。すみずみまで触って、どんなものかきちんと確認しておいてください。なんせ、これからんですから』 「それが一番の意地悪だっての……」 ///  元魔女のからかいをよそに、温めた体が冷えないように全身を洗い流し、薬品が染みた寝間着を浴槽に沈めて浴室を後にした。  体を洗うときもそうだが、拭くときも全身を触らないといけない。わかりきっている行動なのに、こうも緊張するとは情けない気持ちでいっぱいになった。 「あ。着替え、持ってきてない」  胸の上からタオルを巻き、着替えようと思ったときに慌てて寝室を飛び出したことを思い出した。このまま浴室を出てもいいが、気になることがある。 「なあ。この家って、お前以外に住んでる?」  浴室を探しているときにいくつかの部屋の扉を開けたが、明らかに趣が違うところがいくつかあった。  寝室は作業スペースを兼ねていたとはいえ、かなり整っている印象だったが、寝室の向かいの部屋はかなり散らかってカビ臭く、階段のそばの部屋は武器らしきものが乱雑に並べられて油臭く、浴室の隣の部屋は本だらけで書店のような匂いがした。  それぞれの趣向が違いすぎて、なんせ建物自体が思いのほか広い。浴室も二、三人なら一緒に入れそうなほどであり、同居人がいてもおかしくはない。  その場合、こんな格好で敷地内を歩いてるところに出くわしたら、今の精神状態では羞恥心から耐えれそうにない。
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