プロローグ

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プロローグ

「本当にありがとうございます、マリアさん。このお礼はなんと言っていいか。本当に、娘を助けてくれてありがとうございます」  今しがた、その口からありがとうと言ってるだろうに。しかも舌の根も乾かぬうちに繰り返している。  なんと言っていいかなんて、お礼はあっても罵倒されたなら割に合わない。  こうも礼を言われることが疲れるだなんて、先日まではわからない感覚だ。 「……いえ、私にできることをやったまでです。できないことなら、助けることはできません。ですので、これ以上は頭を下げないでください」 「ありがとうございます、ありがどうございまず」  鼻水混じりの声にまでなって、憎ったらしいイケメンが台無しだな。名前はえっと、……忘れたからいいや。 「娘さんは今日一日安静にされれば、明日には目を覚ますはずです。こちらで預かってもいいですが、連れて帰られても構いません。どちらでもお好きなように」 「あ、でしたらこちらで眠らせてやってください。そのほうが娘もゆっくりできます」  おい、引き取らないんかい。涙枯れてんぞ。 「……かしこまりました。では、今日はお引取りください。私も疲れましたので。翌朝にはまたいらっしてくださいな」 「はい、ありがとうございます。今日はありがとうございます」  ドライだなぁ。用が終わればそそくさと帰っていくあたり、あの男は信用が足りない。  けど、ようやく今日の分が終わった。  人助けの魔女、そう呼ばれるこの女は、さぞ難儀な人生だったんだろう。俺も大概だが、同情するよ。  騒がしい男も去った。ベッドで寝てる娘は、まあ大丈夫だろう。俺が調合した薬ではないが、問診結果とマニュアルを合わせれば、これがマストだったはずだ。  熱もないし、寝息も落ち着いてる。第二成長期を迎えたばかりだろうか、膨らみかけの胸が、呼吸に合わせて上下している。 「やれやれ。が変われば性癖も変わるなんで、つまんないな……」  外が暗い。処置を開始したのは夕方になる前だったのに、思いの外時間が経過していたようだ。  反射して室内を映す窓には、銀色の長い髪に空のように青い眼をした、色白で胸のでかい、それでいてケツもでかいが腰回りは引き締まっている、男がみればかなり魅惑的な女――魔女マリアの姿があった。  それが、俺が転生した、俺とは正反対な女だった。
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