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びゅうびゅうと風が吹くたび雪が舞い上がる。
真冬の寒さに身を縮めながら大量に買い込んだ買い物袋を肩に担いで、ひたすらザクザクと雪を踏みならす。
ああ早く温かいお風呂に入ってぬくもりたいと思いながら玄関の前に着くと、賑やかな笑い声が外まで漏れ聞こえてきた。
テレビから聞こえるがさつな大声に混ざっているのは雪華の笑い声だ。玄関を開けるとさらに音量は大きくなる。
「外まで漏れていますよ」
呆れたように部屋に踏み込むと案の定雪華はコタツに潜り込んで、お笑い番組を見ている。ひょいっと長い腕が伸びてコタツの上のみかんを取った。
ペットボトルとお菓子が取りやすい場所にセッティングされ、快適なコタツライフが完成されている。
モグモグとみかんを咀嚼しながら雪華はこちらをみて、ヨっと手をあげた。
「ほはへい」
「ただいま帰りました。……というか口に入れたまましゃべらなくていいです。お行儀悪いって叱られませんでしたか?」
「あいあい。うちうるへーあつあなあ」
「聞こえてます」
晃成はちらりと一瞥してから重たい荷物をテーブルに置いて冷蔵庫を開けた。青白いライトが広く灯っている中にビールだけがきれいに整列している。
「ちょっ……ビールだけ増えてる!」
さっきまですっからかんだった冷蔵庫にいつの間にかビールが増えている。
「またこうやって細さんを使ったんでしょ」
「あいつがこんなパシリをしてくれるはずないじゃん」
心外だと言わんばかりに雪華は上体を起こした。
「荷物が届いたんだよ、に、も、つが!」
雪華はコタツから出てくると後ろからぎゅうっと晃成の腰に手を回し、背中にグリグリと頭を押しつけた。
「まじだって。それより買い物行ってくれてありがとーな。寒かっただろ」
小さく透き通る白肌に一つに結った長い銀髪がユラリと揺れる。こうやって甘えてくれば晃成がメロメロになることを知っててやっかいな男だ。
「……いいんですけどね、野菜も食べてくださいよ」
「わかってるって。ちゃんと食べる。お前の作るご飯好き」
ああ、もう。
晃成は振り返ると腕の中に雪華を閉じ込めて、スンと髪の匂いを嗅いだ。
雪のように清潔で透明感のある香りが届いて、たまらなく愛おしい気持ちになる。
「みかんも買ってきました」
「やった。コタツにみかんって最強だよな」
信じられないくらいの美貌を綻ばせて、雪華はみかんを奪い取った。
そして再びコタツに戻っていくとスルスルと布団の中に潜り込み、折りたたんだ座布団に頭を乗せてふうっと満足げな息をつく。
あのビジュアルとこのだらしなさがどうしても結びつかず、晃成は何とも言えない気持ちで買ってきた食材を冷蔵庫へと入れた。
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