第1章 生クリームが生んだ悪

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「ねえキミたち、雑誌モデルやってみない?」  黒いチャイナ服を着た男子高校生が「やぁ」と声をかけてきた。中国雑技団みたいなコスチューム。両腕には緑の刺しゅうでラーメンの丼模様がはいっていて、両胸の部分にパンダのアップリケがついている。  普段のわたしだったら「おっぱいにパンダがついてる男子高校生なんてヘン!」と怪しんだはず。でも、舞い上がっていたこの日は、警戒心ってものが完全に外れていた。  竹下通りはわたしにとって『ドリームワンダーランド』でしかなくて、個性的でも奇抜でも、原宿はなんでもアリなんだという魔法にかかっていた。おまけに、超絶可愛い空詩ちゃんと歩いていたものだから、スカウトされてもおかしくないって思っちゃったの。  このときはまだ、ほっぺプニプニ軍団の存在なんて知らなかったし、見知らぬ人についていったらダメなんて、子供じゃないんだから大丈夫。そう油断していた。空手の稽古でパパに「初歩を怠るな!」っていつも怒られているのに、わたしってほんとバカな子。 「いまね~、女の子たちに声をかけてこの雑誌にのせるスナップを撮っているんだよ」  高校生は、有名なJS雑誌『CANDY‪‪♡MIMI』の表紙をわたしたちに見せてきた。いま女子小学生にバカ売れしているファッション誌『CANDY‪‪♡MIMI』は、発売日になると本屋に女子小学生が殺到して、あっという間に完売する。クラスの子が買ったって聞くと、女の子たちの間で回し読みの争奪戦が起こるくらい、凄まじい人気を誇るティーン誌だった。 「空詩ちゃんみて!これ、モデルのリリカがのってるやつ!」 「す、すごい……わたしたち同じ雑誌にのっちゃうの!」 「やろうよ空詩ちゃん!こんなチャンスめったにないよ!」 「おっけい、それじゃあぼくについてきてね。カメラマンがいる場所まで案内するよ~」 「はーい!」「はーい!」  わたしたちは舞い上がって、テクテクと高校生について行ってしまった。
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