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メインストリートから外れて裏手に回ったところに、その入口はあった。植物のツルがうにょんと伸びたようなアンティークの街灯に『ブラームスの小怪』というプレートがぶら下がっている。
「撮影場所は、この小道の奥だよ」
中に入ると、さっきまでにぎやかだった人々の声が静まった。両側に赤レンガの洋館や骨董店が軒並び、バイオリンでも聞こえてきそうな高級街へと様変わりした。竹下通りの一角とは思えない空間は、まるでリトルヨーロッパの世界。素敵なのだけど、深い森のようなその道は、進むにつれて不気味な空気をプンプンと放ちだした。
「カンナちゃん……」
空詩ちゃんがわたしの手を強く握ってきた。だんだん不安になってきて、わたしもその手を握り返す。カメラマンらしき人はいつまでたっても現れないし、もう引き返せないくらい奥まで来てしまった。このままついていくのもマズい気がして、わたしは高校生に恐る恐るたずねた。
「あのぉ……ほんとうにこの先で撮影してるんですか」
「うん、もうすぐだよぉ」
「ほんとうに、ほんとうに、この先なんですよね……」
すると、チャイナの背中が立ち止まった。
「くっくっく……」
突然笑いをもらしはじめ、次の瞬間、わーっはっはっはと大笑いをしだした。
「なーんてチョロイ子たちなんでしょう!」
豹変した男子高校生はそう叫ぶと、左ポッケから取り出したミニパンダのぬいぐるみを、ゆっくりと頭にのせた。そして、右手に持つ黒いファンデーション(ローラー式)を目元にぐりぐりと塗りたくって振り返ったのだ。
「われわれは『ほっぺプニプニ軍団』だ。さあキミたち、おとなしくそのほっぺをさしだせ」
そいつは手首をぐにょぐにょと反らし、指をポキポキさせながら近づいてきた。
「ふっふっふっ……われわれに見つかったら逃げ場はありませんよ」
「どうしよう……カンナちゃん!」
突然のピンチに、わたしたちはぶるぶると震えて後ずさりした。右を向いても、左を向いても、誰ひとり歩いていない。木の上から「トウ!」と同じ扮装をした4人の仲間まで現れて、2対5という最悪な状況に陥った。
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