第1章 生クリームが生んだ悪

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   クレープのモチモチ生地について平気で6時間も語らう彼らは、青春というものを生まれて初めて経験した。ファミレスでドリンクバーをぐびぐびと飲みながら、仲間と大好きなクレープについて熱く語り合う。  ウェイトレスに注文した『季節のいちごチョコクレープ』5人分。美しくデコレーションされたプレート皿がおかれ、彼らはしばし、本日食すクレープと対面のときを過ごす。クレープを全方向からながめたのち、生地をつまんでチェックし終わると、おしぼりでギュイギュイ指を拭いて品評(ひんぴょう)をはじめた。 「いちごはまぁ合格かな。でも、生地の薄さが貧相極まりないねぇ」 「竹下通りとファミレスじゃ、クレープを焼く人間の気合がちがうからな。仕方がないさ」 「商品名もインパクトが全然ないよ。もっとデコ盛り感を出さないと」 「季節のストロベリー&生クリームスペシャル&チョコソース3倍がけ、に改名するのがよろしいかと」 「ご名案! まったくもって異議なし!」  満場一致(まんじょういっち)拍手喝采(はくしゅかっさい)が止んだのち、彼らは折りたたまれたクレープの生地を破れないよう静かに展開し、直径を定規で測りだした。 「え~、直径は30センチです」  彼らはナイフとフォークに一瞥(いちべつ)をくれ、「こんなものに用はない」と放り投げた。代わりにスクールバックの中から取り出したのは、キュートな桃色の『マイ包み紙』だった。 「クレープといったらコレだろ!」  両手首をシャカシャカひねり、クレープ巻き巻きポーズをとると、残りの男子高校生たちも「ジョ~シキです!」とポーズをまねた。 「さぁ、みなさん。クルクルしますよ」  桃色ギンガムチェックの紙で、皿の上のクレープを巻こうと格闘するそのあられもない姿は、横のテーブルに座る幼稚園児が「くっだらねー」と鼻をほじるくらい呆れたものだった。
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