第1章 生クリームが生んだ悪

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   原宿・竹下通りを舞台に、彼らは誰もがうらやむような「キラキラした青春」を謳歌(おうか)した。その青春っぷりは、シチリアレモンの果汁がブシューっと飛び出すくらい爽やかで、ビタミン炭酸飲料のCMみたいにシュワっと弾けていた。  クレープのために汗をかき、クレープのために殴り合う。ほんのちょっぴり泣いたりもして、熱き友情は完成した。  でも、輝かしい青春の日々は、3ヶ月も持たず幕を閉じることとなる。彼らはクラブ活動をしまくって、やがて甘いクレープを食べ飽きた。大量の生クリームを摂取しつづけた結果、最後の方は「もううんざりだ……」と思うほどにまでなった。  あんなにも情熱を感じていたクレープに、もはや、まったく魅力が感じられない。ガブっと()んでも、バフっと()んでも、クレープからはみ出すのは生クリームばかり。  1口目も、2口目も、3口目も、生クリーム、生クリーム、生クリーム。  生クリーム、生クリーム、生クリーム、生クリーム、生クリーム、カスタードクリーム、そして生クリーム……。  鬼のように盛られたデッコデコの生クリーム。胃の底からだんだんと、吐き気よりも先に怒りが沸々(ふつふつ)とこみ上げてくるようになった。  食べても、食べても、食べても、食べても……。なんでコイツは生地から()いてはみ出してくるんだ。ああそうかい、そんなに生クリームを押し出してくるかい。そんなに甘ったるいなら、クレープなんて2度と食ってやるものか。  彼らは桃色のギンガムチェックの『マイ包み紙』をビリビリに破き、みんなでヤイヤイと踏んづけた。  生クリームが憎い! 甘い! 吐きそう! もう食べられない……。  ああ、神様。ぼくたちはこれから一体、何に『青春』を求めたらいいのですか!
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