第1章 生クリームが生んだ悪

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 骨ばった5つの右手が、原宿の空に高く突きあげられた翌日――、彼らは竹下通りに存在するありとあらゆるものをつまんで、つついて、プニプニしまくった。  パンケーキ、ワッフル、たこ焼きのタコ、ミックスグミ、コンビニの肉まん、あんまん、ピザまん、などなど……。  なかなか納得のいくプニプニは見つからず、こうなったら手あたり次第、数打(かずう)ちゃ当たるの意気だった。  竹下通りのメインストリートはもちろんのこと、ときには路地裏も大捜索。ビルとビルのすき間や、草場のかげ、ノラ猫しか通れないような細~い通路にいたるまで、青春への強い執着心(しゅうちゃくしん)が彼らを木に登らせたり、地面に()いつくばらせたりした。  そうして追い求めた理想のモチプニは、無駄に大げさな捜索によって早3日で見つかった。  竹下通りで女子小学生とぶつかった瞬間である。彼らのおめめはパアっと盛大に輝いた。ミルクのようにまろやかな肌ざわり。おもちをつついたような、柔らかい弾力――。  その手に触れたモチプニこそ、女子小学生のまっしろな「ほっぺ」だったのである。  教室の端っこに生息し、クラスメイトから「おまえ誰だっけ?」と心ない扱いを受けてきたクレープ男子たち。人畜無害(じんちくむがい)な『青春クレープボーイズ』はこうして、邪悪な『ほっぺプニプニ軍団』へと変貌(へんぼう)したのだった。  軍団の手口は、少女の夢をもてあそぶ憎たらしいものだった。竹下通りを歩く女子小学生に「モデルになりませんか」なんて声をかけてくる。そしてメインストリートの裏手にある森の小道『ブラームスの小怪』へと誘いこむのだ。  軍団は5人で1人の少女を囲み、四方八方からほっぺをプニプニつつきまくるという極悪非道な犯行をくりかえした。プニプニされた少女は、ほっぺが真っ赤になって、ひどい押しあとをつけられた。  ゆがんだ欲望を「青春」などと正当化(せいとうか)し、キツツキさながらに襲ってくるプニプニ軍団。 「わたしたちの聖地が、おかしな軍団に(おか)されている!」  神出鬼没(しんしゅつきぼつ)な軍団に「次は自分が狙われる」と少女たちの間に戦慄(せんりつ)が走った。保護者からは「竹下通りにいっちゃいけません」なんていう声も出てきて、聖地を去っていく少女たちが急増した。
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