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大好きな永理
永理は自分のことをあまり話さない。
わかっているのは、亜華ではなくお父さん付きの天使であること。
そして………先のことはわからないということ。
永理にはたぶんわかっているのだろう。
だけど自分からは言わないし、亜華は訊けずにいる。
だからこそ、会えたときは一緒にいられる時間を大事にした。小学生くらいまでは、それこそトイレもがまんした。がまんの限界が来たら、「10秒でもどってくるから!」と宣言して、トイレにダッシュしたものだ。
永理はいつも笑いながら手を振ってくれた。部屋を出て曲がる瞬間に視界に入るのだ。
今もわりとそんな感じだが、成長するにつれて、気まぐれな父親がこちらに向かうのを、永理の気配でわかるようになった。
だから、気配を感じ取ったら、食事とトイレとお風呂をあわただしく済ませる。
ミネラルウォーターのペットボトルもふだんから部屋に買い置きしてある。
永理が部屋を訪れるときは、いつも準備万端だ。
父親が気まぐれだから、父親に付いている永理が来るのも気まぐれみたいになる。
だけど、全然腹は立たない。
家族のもとを訪れるのにいちいち断りをする必要はないはずだと言って、事前の連絡ひとつ入れない、気まぐれな父親がわるいのだから。
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