16人が本棚に入れています
本棚に追加
あれは、小学校3年生の時だった。友達2人と下校中、首のない犬のような動物を連れた、一本足の男性が見えて、私は思わず彼とその見たこともない動物を凝視した。2人に彼らのことは見えていないことは分かっていたから、さりげなく意識を集中させて。
視線に気づいた男性が私に気が付いて会釈をしたのと、2人がぎゃーっという叫び声をあげたのは同時だった。
私があっちの世界の人に意識を向けすぎると、普段は見えないはずの人も彼らのことが見えるようになるのだと気が付いたのは、そんな失敗を3回繰り返してからだ。そしてやっとそう気が付いた時には、私のそばには誰もいなくなっていた。
あの子と一緒にいたら、この世のものではない人が見えるらしいよ。そんな噂は、周りから気味悪がられるのに十分な材料だった。
小さな町では噂は一瞬にして駆け巡り、中学校にあがったところで環境が変わることもなく、私は一人ぼっちのままでいる。
消えてしまえ。いなくなってしまえ。普通じゃない。気持ち悪い。
登下校の時も、授業中も、家にいるときも、頭の中で繰り返される言葉。何度も聞くうちにその意味すらうまく認識できなくなって、もはや日常で聞く音の一部となっていた。
「そういう人、多いんだよ。自分に対する嫌悪とか、憎しみがたくさん積もってる人。優しいんだろうね。辛かったことも嫌だったことも、全部自分に背負わせてる」
「でも、私、なにもできないのはほんとなんです。みんなと違って気持ち悪いのも本当。家族はみんな優しいけど、その期待にも応えられない」
スープはすっかり冷めきっていた。3口ほどスープを残したままの皿を彼が下げる。
残してごめんなさい、と言おうとしたのにうまく言葉が出てこなくて、私はうつむいて木でできたテーブルの木目を見つめたままでいた。
最初のコメントを投稿しよう!