前菜

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            ◇  「ああー、積もっとる、積もっとる。よう降り積もっとるわ。重いやろ」  あれは、たった1時間ほど前のこと。  中学からの帰り道、夕焼けに長く伸びる自販機の影から小さなおじいさんがそう言いながら飛び出してきて、思わず悲鳴をあげてしまった。  私の腰ほどの身長しかないおじいさん。雰囲気も外見も、明らかにの世界の人だった。  私の悲鳴に、彼がびっくりしたように私を見上げる。 「見えるんか」  しまった、と思いながら、周囲に誰もいないことを確認して小さく頷くと、おじいさんは紫がかった目を細めて、私の肩を指さしながら言った。  「体、重いやろ」 「え?」 「(おも)いがたくさん積もっとる」 「想い?」 「こっちの世界の奴にはわからんやろうな」  ククク、と喉の奥で笑って、彼は自販機の方に再び歩きながら手招きをした。  「ついておいで」 「でも」 「大丈夫、悪いようにはせんよ。体も楽になるし、美味しいご飯も食べさせてあげる」  知らない人にお菓子をあげると言われてもついて行ってはいけません。  小さい頃からそう言われ続けてきたのに、何かに誘われるようにふらふらとおじいさんについて自販機の影の中へ滑り込んでしまった私は、やっぱり変なのかもしれない。
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