ガーリックが香るトマトと嫉妬のパスタ

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ガーリックが香るトマトと嫉妬のパスタ

 そこから私の前に料理が置かれるまでは、あっという間だった。私が、入口のないこの部屋はどうやって客を迎え入れるのだろうと考えている間に、目の前にはおいしそうなトマトパスタが置かれていた。  「私のいる世界と、そちらの世界の食べ物は同じなんですね」 「いや、本当は違うけれど、私は料理人だからいろんな世界の料理が作れるんだよ。勉強したからね。こっちの世界の料理は、少し刺激が強すぎるだろうから」  なんの変哲もない、嗅ぎなれた香りを漂わせているトマトパスタ。  おじいさんがこれを作ってくれた意図が未だによく理解できないまま、「いただきます」と手を合わせると、おじいさんはちょっと待った、というポーズをして、カウンターの下から手のひらサイズの塊を取りだして、ごりごりとパスタの上で削り始めた。  「これが、『嫉妬』だよ」 「嫉妬?」 「そう。君の上に降り積もっていた『嫉妬』をかき集めて固めたもの。この部屋に入って、体、軽くなったでしょう? 君には色んな想いがどっさり降り積もっていたからね。重かったはずだよ」  そう得意げに言われて肩をまわすと、確かに肩が軽くて、最近続いていた原因不明の頭痛もなくなっていた。    おじいさんの手に握られた、クリーム色の固形物。チーズにそっくりな質感と色だけど、その中に黒胡椒のような黒っぽい塊が見える。  どうぞ、と促され、おそるおそる口に運ぶとスパイスのような香りが鼻に抜けて、舌がぴりりと痺れた。  「おいしい」 「『嫉妬』は、いいアクセントになるんだよ」  パスタに『嫉妬』を絡めながらまじまじと観察する。降り積もった想いを調理して食べるなんていう話は説明されてもいまいち想像はできなかったけれど、そもそも生きている世界が違うのだからと受け入れる気持ちでいた。  それでも、私はまだどうしても信じられないことがあった。    「これ、本当に『嫉妬』なんですか? ……私に『嫉妬』が降り積もってるなんて、ありえないと思うんですけど」
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