ごろごろチキンと憎悪のスープ

2/4
前へ
/14ページ
次へ
 思い切ってスープを口に運ぶ。香りから想像していた通りの味。けれど今は、その味を楽しむことよりも、義務感が先行していた。  全部、飲み込まないと。私に向けられた憎悪を、全部飲み干さないと。  「……『憎悪』に関しては、なにも言わないんだね」  おじいさんはそう言ってすっと目を細めた。なにもかも見透かされているような気がして、慌てて目をそらす。  赤くてどろどろしたスープに私の輪郭が映っているのが見えた。かきまぜるのにあわせて、スープに映る私がゆらぐ。  このまま消えてしまえ、と願いながらスープをかき混ぜる私の手に、おじいさんのしわだらけの手が重なった。  行儀悪かったな、と慌てて手を止める。ごめんなさいと言う私の声には応えずに、おじいさんは静かに言った。  「憎悪、びっくりするくらいたくさん積もっていたよ」 「……そうですか。まあ、しょうがないと思います」 「違うんだよ」  おじいさんは少し悲しそうな顔をして私をじっと見つめて、そして言った。  「この憎悪、全部君が君自身に向けたものだよ」  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加