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思い切ってスープを口に運ぶ。香りから想像していた通りの味。けれど今は、その味を楽しむことよりも、義務感が先行していた。
全部、飲み込まないと。私に向けられた憎悪を、全部飲み干さないと。
「……『憎悪』に関しては、なにも言わないんだね」
おじいさんはそう言ってすっと目を細めた。なにもかも見透かされているような気がして、慌てて目をそらす。
赤くてどろどろしたスープに私の輪郭が映っているのが見えた。かきまぜるのにあわせて、スープに映る私がゆらぐ。
このまま消えてしまえ、と願いながらスープをかき混ぜる私の手に、おじいさんのしわだらけの手が重なった。
行儀悪かったな、と慌てて手を止める。ごめんなさいと言う私の声には応えずに、おじいさんは静かに言った。
「憎悪、びっくりするくらいたくさん積もっていたよ」
「……そうですか。まあ、しょうがないと思います」
「違うんだよ」
おじいさんは少し悲しそうな顔をして私をじっと見つめて、そして言った。
「この憎悪、全部君が君自身に向けたものだよ」
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