前菜

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前菜

   物心ついた時から、私と世界の境界線は曖昧だった。  世界との境界線が曖昧というのはつまり、の世界の人のことも見えることがある、ということだ。  例えばそう、私が通う中学校の正門で毎朝難しい顔をして何かを書き込んでいる3本足の男性とか、毎週土曜日、家の近くの交差点の信号のそばに一日中立っている背が高くて長い髪が地面にのめり込んでいる女性とか、そういう人たち。  怪談話によく出てくるような、血みどろの女の子とか、恨み言を呟きながら追いかけてくる人とか、そういう人たちとは違う。  そういう人たちもいるのかもしれないけど、私には見えない。きっといろんながあって、私に見えているその人たちは、その中の一つの世界の住人に過ぎないんだろう。  私に見えるその人たちの姿は、私とは少し違うけれど、小さい頃から見えていたからその外見にもすっかり慣れてしまった。    今、カウンター越しに微笑んでいる白髪のおじいさんも、あっちの世界の人だ。  今まで、彼らと関わったことが全くないわけではない。けれど、流石にこれは初めてで戸惑う。  目の前に置かれた、ニンニクが香るトマトパスタ。その上に振りかけられた、所々に黒い点々としたものが見えるチーズのようなもの。  私はそれをおそるおそるフォークでつつきながら、もう一度きいた。  「これが、『嫉妬』ですか?」  
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