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昨日来た時にあった家具や家電が一掃されて、がらんどうになっている。この部屋は僕一人で住むには不釣り合いな1DKタイプだ。
「ど、どうやって運んだんですか?ここ、二階ですよ」
「運ぶ必要もないさ。こいつがみんな丸のみだ」
弓弦様の指し示した場所には黒い猫がいた。
まるで影みたいに存在感のないその猫は首に赤いリボンを巻いていて可愛らしい。そんな猫の仕業だと弓弦様は言う、とんでもない話だ。
「この子が……」
良く見るとこの猫、尻尾が二本ある。
この子は弓弦様の式神なのだろう、クワァと退屈そうに欠伸をしてそのまま部屋の隅に消えてしまった。
「さあ、さっさと食ってこれからのことを決めよう」
弓弦様の作っていたのはバターたっぷりのホットサンドだった。
ハムとチーズの挟まったシンプルなそれを二切れ、あっという間に食べ終えてしまった。
「そうですね。僕、仕事を探さないと……」
「それならいい考えがあるぞ」
そうして弓弦様に連れて来られたのは昨日行ったうどんそば屋の三階だった。久我探偵事務所と書いてあるそこは弓弦様の構える事務所だ。ちなみに二階はアヤシイ金融会社が入っていて、いかにもカタギではなさそうな男達が出入りしている。
この場所はとにかく良く分からないテナントで、入りやすいのは一階にある稲成だけ。
「お前は今日から俺の助手だ」
「ぼ、僕がこの探偵事務所で働くんですか⁈」
そもそも、探偵事務所って何をするところなんだろう? というのが僕の疑問だった。
「なぁに、適当に電話を取って俺の予定と合わせてアポ取ってくれたらそれでいい。あとは客に茶が淹れられたら完璧だな」
「た、探偵ってそんな感じでしたっけ……」
探偵事務所って一体どういう商売なんだろうかと僕はワクワクしていたけれど、弓弦様の事務所はあまりにも繁盛していないし、そもそも人が寄り付かない。
おかげで探偵というより何でも屋だ。
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