恋のおまじない

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妖怪たちからは「なんでも助けてくれる」という噂が立っていて、奇妙な影が事務所の周りをウロ付いていることもある。 僕の新生活はそうして忙しなく始まった。 編入先の大学を探しながら、僕は久我探偵事務所で雑用係をする。たまに僕が弓弦様の投げ出した依頼書のファイルの整理なんかをしていると、壁からひょっこりすり抜けて一つ目小僧やぬらりひょんのおじさんが現れて僕を驚かせた。まるでこの事務所はオバケ屋敷だ。 「あの、妖怪たちからの依頼を受けなければ繁盛するのでは?」 僕がそう打診してみても、弓弦様はケロッとした顔をしていた。 幽霊が出るだの狐に化かされるだの、根も葉もない噂を立てられて弓弦様は悔しくないんだろうか。 「あいつらが人を化かすのも本当だし、実際ウチには幽霊も出るからな」 確かに僕も見た。 トイレに入ろうとしたときに血まみれの女の子がいて気絶しそうになって……。思わず弓弦様の名前を呼んだのに、弓弦様は自分で祓えるだろ?とかなんとか……うう、恨めしや。 僕はじっと弓弦様を見つめてみる。 「でも、俺が相手にしているのは人間だけじゃない。お得意さんはみんな人ならざる者ってやつだ、安心していいぞ理人」 「な、何を安心すれば⁈」 テナントの一階にあるうどん・そば屋の方が繁盛している気がする。電話一本でものの数分で三階まで配達してくれるので、僕や弓弦様も気軽に注文していた。 「稲成、よくあのお兄さん一人で切り盛りしていますよね。僕、何か手伝うことがないか聞いてみようかな……」 「お前、俺にはそんな優しい言葉かけたことないじゃないか。どうして稲成には優しいんだ?」 弓弦様の子どもみたいな台詞に僕はしれっと言う。 「僕、稲成のきつねうどん大好きなんです」
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