恋のおまじない

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「弓弦様、もう絶対久我には戻って来ないでください。貴方は、僕のことを好きにならなくてもいい。新しい場所で此処よりも自由に、僕の知らない人と大恋愛でもして幸せになって下さい」 些か乱暴な言葉にはなってしまったが、精いっぱいの新しいおまじないのつもりだった。 弓弦様が悲しそうに笑う。言葉は力になる、僕自身がそのことを良く知っている。お前は籠の鳥だと言われて育ったら、本当に飛び方を忘れてしまった。 いざという時に羽根の広げ方すら分からない。僕は僕を信じられない。 弓弦様に暗示なんて掛けなければ良かった。こんな風に別れるなら嫌われている方がマシだ——…幼い僕の情緒はボロボロで、とてもまともじゃなかった。きっと弓弦様を困らせただろう。 「……そういえば。弓弦様は僕のことを忘れなかったんですね。数年間連絡がなかったと思い込んでいましたけど、それも航様が弓弦様から届いた手紙を僕に見せないようにしていただけのことでしたし」 「お前のことは赤ん坊の頃から知ってる。忘れる筈がない。そもそも、お前みたいなちびっ子の言霊が俺に通用するって?それこそ、奢りというやつだ」 僕は弓弦様の言葉に頷いて、引き出しから弓弦様の手紙に入っていた折り鶴を取り出した。 「この鶴、今でも飛ばせますか? 昔、良く飛ばして見せて下さいましたね」 「懐かしいものを出してきたな。良いだろう、俺の力を見せてやるよ」 そう言って弓弦様は形代に力を込めて、折り鶴にひょいと触れさせた。形代と一体化した鶴は弓弦様の意のままに動く。 フワフワと浮いたと思ったら羽根の部分を羽ばたかせて僕の目の前までやってきた。
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