恋のおまじない

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「なんでこういう時に言霊の力使わないんだよ」 弓弦様はそう言ってまあるく笑った。 「だ、だって僕にはこういうの、良く分からないし……」 「俺はエスパーじゃないが、お前の言いたいこと、分かるぞ。弓弦様のこと大好きって昔は良く言ってくれてたのにな」 「なっ……! い、今はもう大人ですし、なんというか軽々しく言うものじゃ……」 キスして欲しいとか抱き締めて欲しいとか、いっぱい弓弦様としたいことはあるけれどここに来るまで僕は上手くその気持ちを形に出来なかった。今、ようやく心の中で反芻する。弓弦様としたいこと、して貰いたいこと……考えていたら顔が熱くなってきてしまった。 「理人」 「はい……?ひゃあ!」 不意に、ふわりと弓弦様の使っている香水の匂いがした。爽やかで甘いマンダリン。 そして、唇に柔らかいものが触れる。これって――…僕の思考が壊れて停止した。 「本当に欲しい物に力を使わなくてどうする」 「今の、僕がやったんですか?それとも弓弦様がしたくてしてくれたんですか?」 僕は自分のことが分からなくなってしまっていた。 きっと、誰しもが無意識に自分の見える範囲で選択して、その道程を歩いている。僕は自分が何を選べばいいのかちっとも分からなかった。弓弦様に嫌われたくない、好きになって欲しい。 たぶん、僕と同じ好きじゃなくてもいいのかも知れない。そこまで多くのものは望まない。たとえば、昔みたいにふっと顔が見たくなって、会いに行ける距離ならば。 「さあな、それはお前が力を律するように出来るようになるまでお預けだな」 根拠はないけれど、今のは絶対弓弦様が自分で望んでしてくれたキスな気がして僕は胸が苦しくなってしまった。 「お前が望めば何でも叶う。理人、お前はなんでも手にすることが出来るんだよ」 「……良く分からないです、だって、今までずっと……」
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