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僕が彼を殺してしまったのではという恐怖がこびりついて離れない。
例え世界中が「僕のせいではない」と言ってくれたとしても、僕は僕を許せないだろう。
深い悲しみが嵐の中から顔を出し、ゆっくりと近づいてくる。
底なしに明るい弓弦様だって、航様が死んだときにはどしゃぶりの雨に晒された柳のように打ちひしがれていた。
航様の死を語ることは久我の家では御法度だった。それどころか久我の一族の人たちは、航様の死を利用したいようだ。何か不幸がある毎に航様の名前を出し、呪いだと嘯く。黒い影ははち切れそうなほどだった。
だからこそいつまでも僕の中のしこりが消化されず、時間や空気がどんどん腐敗していってどうしようもなくなった。それは弓弦様も同じだったのは救いだ。傷を舐め合うようにして二人でいるだけで空間を温かくする。
しかしうまくは言えないけれど、このツケは必ず回ってくる……そういう気配もした。
それはあまりに巨大で不穏な気配だ。まるでみなしごのように寄る辺なく、僕は弓弦様に寄り掛かっている。
「弓弦様。どうして来てくださらなかったんですか……?」
弓弦様は悲しそうに笑った。
「どうしてだろうな。俺はいつか、お前がこっちに来るのを待っていた」
昔、大人は泣かないのだと思っていた。
母さまに冷たくされても、父様に無視されても僕には弓弦様と航様がいた。僕の手を繋いでくれる二人の温もりが遠く思い出せる。
大人たちは僕に冷たかった。
口を利くな、大人しくしていろ。そんなことを言う人たちはまるで別の生き物だった。僕にとって大人はみんな意地悪で、したたかで、悲しむこともないのだと思っていた。
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