変異

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僕は夢を視た。 カリカリと弓弦様の走らせる万年筆のペン先が紙に引っ掛かる音、その音ですぐに分かった。此処は弓弦様の離れだ。僕が寝泊まりするようになって追加された布団はきちんとお日様の下で干されていい匂いがした。 懐かしのそこに今よりも幼い僕がいて、モジモジと前屈みになっている。夢の中の僕は精通もしていない——…という設定で、気が付くと弓弦様が傍に座り込んで微笑んでいる。見ているだけで恥ずかしくなるような夢だ。 「弓弦様、あの、アソコがおかしいんです……」 「別におかしいことはない。理人も大きくなったってことだ」 「……? なんだか、ムズムズして……んっ」 見せてみろ、と言われて素直に弓弦様の前で下着を脱ぐ幼い僕の姿は、夢の中だから当たり前だけど、おかしい。今の僕だったら絶対できない。 でももっとおかしいのは、僕が後ろから抱っこされて性器を弄られている自分自身の姿を見て、「羨ましい」と感じていることだった。 いいなあ、幼い頃に戻りたい。やり直したい……何もかもを。 「あーあ……」 こういう夢を視るのは珍しいことじゃない。弓弦様と再会してから、時々ある。そして、僕はこれをひとりで処理しなくてはいけないのだった。夢の中では弓弦様にして貰っていたのに。 「……んっ……」 自分でするのは難しい。実際、僕が夢精したとき、男はそういうものだと軽く笑って教えてくれたのは弓弦様で、僕の先っぽを弄って自慰の仕方を教えてくれた。その記憶と今日の夢はリンクしている。僕は記憶を反芻して夢に視たのだ。 弓弦様の大きな手を思い出す。こうやって、僕のモノを包み込んで……擦ってくれた。 「弓弦様ごめんなさい……」 こんな風にオカズにされていると知ったら、弓弦様はなんて言うだろう。いけない子だと、悪い子だと叱ってくれたらいいのに。 毎晩航様の部屋に呼び出されてシていたことを叱ってくれたら良かった——…嫌ってくれたら良かったのに。 『僕、弓弦様のことが好きなんです』 航様の寝屋に呼ばれたあの日、僕は航様を拒んだ。そして、好きな人でもいるのかと航様に問われて僕は嘘を吐かなかった。 僕にとって性的なことは全てこの日に辿り着き、いやな気持ちになる。
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