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「俺にとって、お前は特別なんだよ」
「僕が?」
「気軽に扱えない。でも、別に厄介だって訳じゃないぞ。大切にしてるって意味だ。まあついでだからお前も手伝えよ」
ホテルに入るところと出るところ、両方の写真を揃えた。ホテルに待機する為にカップルのフリをしていたらしいけど、なんとも紛らわしい。
「弓弦様のこと好きだったら、ちゃんと伝えてあげたらいいよ」
そう言い残して稲成さんはひとりで自分の店に戻っていってしまった。気を利かせてくれたらしい。
帰り道、事務所に戻る僕らはこれでもかというくらい気まずかった。僕が弓弦様に対して安心している気持ちというのは、彼がなんにも急いでいない人で、余裕があって、魔法のように僕をやさしく包んでくれるところから来ていた。
それなのに、今日の弓弦様はとことんピリピリしている。いつも通り丁寧な車の運転とは裏腹に、弓弦様は喋らない。怒っているのかな、と思ってしまうくらいにはおかしかった。それでも僕を送ってくれるのは子どもだと思われているんだろうなぁ……と切なくなる。
「僕、弓弦様のことが好きです」
「はぁっ?」
不意に、ごく自然な形で言ってしまった。口に出してしまったことはもう覆せない。
「いつも自由な貴方のことが好きでした。今は、その隣にそっと置いて欲しいと思っています。子どもだと思われていると思いますけど……」
「好きって、どういう風に?」
弓弦様はニヤニヤしながら僕の言葉を待ってくれていた。
どういう風?
考えたこともなかった、傍にいるだけで幸せだけど、この好きはもっと貪欲で、いやらしい部分も含んでいる。車が停車しもう降りなければ……というタイミングで僕たちは駐車場に立ち尽くしていた。
「ちゃんと僕が力を使えるようになったら、キスしてくれますか?」
「はあっ?お前、本当に子どもみたいなことを言うんだな。キスだけでいいのか?」
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