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「だ、大丈夫です、キスで我慢します!」
「そうかよ」
ケッ、弓弦様がそんな悪態をついて背中を向けた。去り際、弓弦様の楽しそうな声が響く。
「なあ、キス以上のこともして欲しくなったら遠慮なく言えよ!」
「そ、そんなこと言えるはずないじゃないですか!」
勢いで告白してしまったものの、肝心の弓弦様の気持ちを聞くことが出来なかった。上手く躱されている気がするし、誤魔化されているような気もする。どちらにせよ複雑だ。
僕はきっと弓弦様と恋人になりたいのだと思う。
デートしたりキスをしたり手を繋いだり、それ以上のことも。物語の世界の中に夢見たような、甘くてとびっきりの関係。
次の日出勤して、僕は言った。
「弓弦様はどうして僕のことを傍に置いてくれるんですか?」
今日の昼食は弓弦様の作ったご飯だ。稲成が臨時休業なので、僕は食べるものがなくてお腹を空かせていた。
やっぱり好きだなぁ、と思いながら弓弦様の顔をじっと眺めながら、僕もおにぎりを齧る。弓弦様が握るとおっきい手なのにふんわりとしていて美味しい。おかかと梅、僕の好きな具材だ。
「お前は本当に俺のことが好きなんだな」
「だ、だって本当のことですよ?」
「そりゃあお前、俺は心配なんだよお前のことが。稲成がないと食事もどうしていいか分からないんだろう。もうこの際、手元に置いておきたい」
同じ好きじゃなくても、僕は僕なりに弓弦様に寄り添い、弓弦様の背中を追っている。弓弦様はどういう気持ちなんだろう――ということは大切なことだった。どうして弓弦様は僕をラブホテルとやらに呼んでくれなかったのか。
「じゃあ理人、お前俺とセックス出来るのか?」
「は、はいっ? せ、せっ……⁈」
僕はビックリして食べかけのおにぎりを落っことしそうになってしまった。
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