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言葉に力を乗せて喋る。
少しだけ弓弦様が苦しそうな顔をした。どうしてだろう、呪うような言葉ではないのに。きっと双子の兄である航様が死に、弓弦様自身が幸せになりたいと望んでいないからだ。
「弓弦様と一緒にいることだけ」
幸せになりたがらない人間というのは厄介だと僕は思う。かつての僕のように、呪いを受けてしまう。
「もう一緒にいるのに?」
「こういうのじゃなくて、少し違いますよ。弓弦様がしてくれたお話に出てくる老夫婦みたいに、寄り添って一緒にいたいんです。本当はキスしたりハグしたりしたいし、もっとその先のことも……と思いますけど、何だか申し訳ない気がして」
言葉にしてしまうと、なんて陳腐な願いだろう。
きっと弓弦は呆れている、年の離れた子どもの駄々に付き合っている気分なのかも知れない……そう思うとどんどん悲しくなってしまった。
ワガママを聞いて貰ってでも一緒にいれるのなら嬉しかった、これでいい、満足だと言い聞かせていたのに願いはどんどん膨らんでいく。
「弓弦様が僕のことを子どもだと思っているのは分かっています。でも、僕もう成人したんです。ちょっとだけ、そういう目で見て頂くことは出来ませんか?」
「……待て、そういう目っていうのは俺とセックスしたいってことか」
一瞬、どうしようかと躊躇した。
「そうです。でも、僕には秘密があるんです」
震える声で言うと、弓弦様の手がそっと僕の手を強く握ってくれた。
航様としていたことを、今でもぼうっと思い出す。蜘蛛の巣みたいに張り巡らされた腐敗が、歩き出そうとした瞬間に纏わりついてくる。払いのけてもベタベタする。無視できない過去を持つということは、こういうことだ。好きな人の目もまともに見れない。
「どうした?」
優しい声に、言うのを止めようとも思った。
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