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弓弦様といれば安心だ。弓弦様だけは僕の嫌がることをしない。そういう、昔から持っていた感覚を思い出す。今から僕が口にすることは、そんな弓弦様に嫌われてしまうリスクのあることだった。
それでも口にしようとしているのは、前に進みたいからだった。
「航様のお相手をするのが嫌で、でも逃げられなくて……」
弓弦様は何も言わず、僕の目は見ず、全身で話を聞いていた。
「双子だし、お二人はとても良く似ていましたよね。だから僕、航様のことを弓弦様だと思うことにしたんです。だから……航様に抱かれている時は、弓弦様に抱かれているって、そう思って――…」
つん、と鼻が痛い。
喋っている最中に僕は泣き出しそうだった。何を言っているんだろう。こんなの、僕が一方的に許されたいだけだ。
でも、暗い告白にも弓弦様は手を放さず甘ったるい声で言った。
「それでお前が楽になれたのなら、それでいい。お前が罪だと思う必要もない」
「でも……」
ギュッと抱き締められた。
抱擁されたまま、髪の毛を撫でられる。弓弦様の顔が見えない、でもその声は甘い。いつも優しい。目の前の霧が少しずつ晴れていくように、クリアになっていく。恋によって開かれたエネルギー、弓弦様の声。
「俺にも秘密はある」
「どんな……?」
悲しい告白が、静かな部屋の中に響いた。
「お前のこと、ずっと好きだった」
「うそ……、そんなの、嘘ですよね弓弦様」
信じられない、そう口には出来なかった。恋という生き物は止まらない。心にびゅうびゅう強い風が吹くように、鈍く光って見えた。それは気の迷いではない。
これまでのどんな幸福も、こんな風に心を沸かせたことはない。
「俺は本気だ。理人、お前のことが大切だった。手の届く距離にいたらきっと俺は兄貴のようになっていただろう」
指先で顎を掬われ、僕は顔を上げる。彼のダイヤモンドみたいな瞳を見た。
「弓弦様……?」
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