926人が本棚に入れています
本棚に追加
言葉に力を乗せて喋る。
なるべく力は使いたくはなかったけれど、非常事態なら仕方ない。
「近寄らないでください、航様。僕、貴方のこと呪ってしまった。貴方がいなくなるように神様に祈った。何かを恨んでも、何も得るものはないのに」
久我航という人はもういない。死んでしまった。
おそらくただひたすらに好きだと言って僕を囲っていたその人の、遣る瀬無いほどの無力さ。
理人や弓弦が術にかけては天才というなら、航はきっとその逆だった。それが自分達と彼を大きく隔ててしまい、彼を心病ませたのだと思うと切ない。
酷い人だったと憎むことは簡単だった。でも、そんな自分の浅はかさが本当に彼を化け物にしてしまった。
「もう貴方のところには戻りません。人を食べるのは強くなる為ですか?それとも糧とするため?いずれにせよ……もう貴方を以前の航様とは思えない」
僕は弓弦様に持たされていた紙形に力を乗せて、航様の方へと放った。
あ、あああああ。
にくらしい
にくらしい
ゆずるめ、ゆずるめええええ
蜘蛛の巣のようにうすぼんやりとした光が彼の身体に纏わりつき、絡む。彼は黒い霧になって消えてしまった。
以前と姿が変わっているように見えたのは、実際にその姿を見たのが初めてだったから……だろうか?
「兄貴、どんどん大きくなっていくな」
弓弦様に航様と会ったことを話すと、あっさり僕の疑問を解消してくれた。
「……やっぱり。以前はドア越しでしたから、直に見たことはなかったんです」
「アレは、鬼のような性質があるとみた。人間を食い、どんどん力を付けていく。まるで現在の酒呑童子だな」
「坂田金時や源頼光に討伐された鬼でしたね」
僕は悲しいことに、航様のおかげで弓弦様との同居を始めたということになる。素直に喜べなくてしょんぼりしていると、イチが心配そうに顔を覗き込んできた。
「理人殿っ、憧れの同棲生活ですよっ!」
最初のコメントを投稿しよう!