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「僕たちはまだ交際している訳ではないから、同棲というのはどうなんだろう」
あの衝撃の告白から数日、僕と弓弦様の中は一向に進展していなかった。
弓弦様の綺麗な家に入れて貰い、僕は書斎に寝かせて貰っている。弓弦様の美味しいご飯付き。まるで居候だ。イチは器用に皿を洗いながら頓珍漢なことを言った。
「ええっ、まだキスしかして貰ってないんですかぁ⁈」
だってこないだイチが邪魔したんじゃない、と一瞬意地悪な気持ちになったけれど、僕はイチのことが大好きなのでその言葉を飲み込んだ。
「てっきり人間の番は、同じ屋根の下で住んでいると間違いが起こるものだとばかり!」
最近、イチは一緒にテレビを観ているせいか随分と俗物的な発言をする。弓弦様はあまりテレビを観ない人だけど僕とイチは大好きだ。
「なんだ、間違いを犯して欲しいのか?」
「わっ、弓弦様っ! 聞いていたんですか⁈」
「そりゃあこの距離だからな。……そらっ!」
弓弦様に背後から抱き締められて、僕は身を竦めた。
「あ、あの!別にキス以上のことをして欲しいという意味ではなくて……!」
「じゃあ、しなくていいのか?」
「し、したいです……っ!」
駄々を捏ねているような僕の台詞に、弓弦様は僕を抱えたまま笑う。
「なんだそれ」
イチがニヤニヤしながら僕たちを横目に、立ち去っていった。
「あっ、イチ……!」
その後を追おうとした僕は、弓弦様に捕まえられてしまった。
「こら、逃げるな」
「だ、だって……」
言葉はいつもあからさますぎて、微かな光すらも掻き消してしまう。
「弓弦様、とてもいい匂いがする」
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