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弓弦様の髪からはいつもの匂いがした。
それこそ慣れ親しんだ匂いで、昔から僕はこの匂いが好きだった。弓弦様の使っているシャンプーの匂い。僕はどうしていいか分からない、という正直すぎる言葉を飲み込んで弓弦様と寄り添うことにした。
このままだと果てしなく高い波に攫われて、ますます僕らは遠くに行ってしまう。そんな甘い予感に胸を躍らせながら、弓弦様が僕を抱き寄せる仕草にドキドキしていた。
ああ、神様。
こういう時、抱き返してもいいんでしょうか。ぎゅってして貰えたら、僕もぎゅってしていいのかな。
「お前はやっぱり子どもだな」
「子どもでもいいんです。こうして、優しくして貰えるなら」
そうして、僕らは何度かキスをした。
最初は触れるだけのキスで、弓弦様は噛み付くように僕にキスしてきた。どう考えても僕がしっかりと身構え過ぎていてぎこちなく、互いにそっと笑った。まるでブリキの人形がキスしているみたいだ、と弓弦様が言った。
どんどんキス以上のことはしてくれないのかな――…という欲張りな気持ちになる。
「おやすみ、理人」
「えっ、お、おやすみなさい……っ」
帰ってくる場所も同じなのに。僕は自分のベッドでイチの毛並みを撫でながら考え込んでいた。僕がもう少し大人だったら弓弦様に手を出して貰えたんだろうか。
人がたられば、なんて考える時は大抵どうしようもない時なんだってことは分かってる。でも、僕は考えてしまうのだった。
「イチ、僕って子どもに見えます?これでも、大学生なんですけど……」
「理人殿は童顔ですからねぇ。なあに、一人前になれば弓弦殿も認めてくれるでしょうて」
いつもは僕がイチに毛布を掛けてあげるのに、今日は何故かイチが僕に布団を掛けてくれた。
うーん、やっぱりイチにも子ども扱いされている気がする!
「弓弦殿は今の、ありのままの理人殿のことを好いていると思うのですが」
「そうかな?あ、イチも一緒に寝る?」
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