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弓弦様はそう言って笑った。声が弾んでいる、そういう屈託ない笑い方だった。
「ひーん、理人殿っ、若様っ。やっぱり一緒に寝てもいいですかっ?」
「イチ、もう弓弦様に意地悪しちゃダメだよ?ほらおいで」
「本当は弓弦殿と若様に仲良くして頂きたかったのですが……あれ以上の名案が浮かばなくて」
「あのな、イチ。お前の力がなくてもうまいことやるさ」
「ほ、ほんとですかぁ……?」
僕たちは結局二人と一匹仲良く同じ布団で眠った。
「あ、あの、結局弓弦様もこの布団で寝るんですか?」
弓弦様はどうやら神妙な顔をしている。暗くて表情が見えなくとも、声音で分かってしまう。それだけ僕は弓弦様のことを分かり始めていた。
「言っただろ。なんでも、お前の言う通りになるって」
イチは安心してすぐに眠ってしまったらしい。僕たちの足元で飼い犬のように丸くなっている。
「お前が大人になりたいように、俺は子どもになりたいんだよな。大人になってしまうとどうも、簡単にはいかないことばかりで」
「……僕と同衾することも?」
「ああ。強くなろうとすればするほど、内側には弱い部分を包容することになる。お前は俺の弱みでもある訳だ」
「惚れた弱み、ですか?」
「そう、それだ。お前世間知らずなくせに変な言葉は知ってるんだな。お前を誘って東京に行こうって勝手に決めてたのに、お前はこなかった。それで、勝手に心がぽっきり折れちまってな」
航様は僕としているところを、弓弦様に見せた。
そして激高した弓弦様は航様と争い、勘当され今に至る。あれは僕への酷い仕打ちであると同時に、弓弦様の心に大きな傷を残してしまったようだった。
「……ごめんなさい。僕、勇気がなかったんです」
「お前はずっとあそこで育った。あそこしか知らない。無理もないことだ。お前は何も悪くない」
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