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なんだか嫌な気分になってきた。
僕は、僕が言霊の力で航様を呪ったから彼がああなったのだと盲目に信じ続けてきた。けれど、きっと簡単なことではないのかも知れない。
人が人ならざる者になったということは、それだけ業が隠されているものなのかも。
「久我は色んな研究をしていた。妖怪の血を飲めば力を得られるなんて、馬鹿げているだろ? でも本気で信じていた人間を、俺は一人だけ知ってる」
僕は息を飲んだ。航様は、僕の血や精液も啜っていた。
なんのために――というのは聞くまでもない。力を得る為だ。
双子の弟である弓弦様を凌駕できるほどの力が欲しいと航様が望むのは自然な気がした。
「久我の研究のことはこの際どうでもいい。問題は解き放たれたままのあいつだ。あれが行きそうな場所は?」
「……さあな。本来、兄貴が死んだのは東京じゃない。だとしたらアレは未練があってしてることじゃないだろう。兄貴の目的は大きくなることだけだ。そろそろ、潮時かもな」
潮時——というのはお兄さんである航様を倒す、ということだ。その言葉の意味を僕はなんとなく理解する。もう航様は幽霊なんていう生易しいものじゃない。
話しているうちに鈴谷さんの仕事は除霊師で、ストイックに霊を祓い、害悪な悪霊は野放しに出来ないという考えの持ち主らしいことが判明した。
「除霊師……って、どうやって除霊するんですか?」
「お経に決まってるだろ」
素っ気なく言われたが、実はすごいことだ。一般人である鈴谷さんが数珠一つで自身の洗練された霊力だけを頼りに霊を祓ってしまうなんて。
「鈴谷さんなら航様を祓えるんですか……?」
化け物としてではなく、人間の霊として。
「あんたはアレを成仏させてやりたいの?きっと祓うのは苦労する」
「なあ鈴谷湊人。お前のことは知ってる、一匹狼、寺育ちの純正除霊師。俺たちと組まないか? 一人で無理なことでも、誰かとやりゃできることもある」
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