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「……俺は別にあんた達と協力する為に来たんじゃない。この人の護衛をして欲しいっていうのが、今日ここに来た理由」
鈴谷さんが渡してきた資料を見て、弓弦様が複雑そうな顔をした。
「どうして直接守ってあげないんですか?」
僕は率直な疑問を口にした。そんなに大事な人なら、自分自身で付き添ってあげればいいのに。
「俺が久我航を追う。その方が都合はいい。俺は一度あいつとやり合ってるから、俺に付いてきたらそれこそ危ない。でも一番は……俺が護衛みたいな真似をするとすごく嫌がられる」
そう言って彼は茶封筒を渡してきた。随分と重たいその中身を確認して、弓弦様は頷いた。
「分かったよ。しかし、久我の人間でもないのに兄貴を祓おうなんて人間がいるなんて……俺たちと協力すりゃいいのに、どうしてそう頭が堅いんだ?」
「俺は今までずっと一人でこの稼業をやってきた。他の方法は知らない」
「死ぬなよ、鈴谷湊人」
「……うるさい」
鈴谷さんは本当にあんな大きな存在を祓おうとしているらしい、数珠と、お経だけで。なんだかとても無謀なことに思える。
僕が東京に来たのは、そもそも航様を見つける為だった。久我の人たちは航様をどうするつもりなのだろう……きっと、幼い僕にしていたように、閉じ込めて実験台にするのだろう。そう考えると僕は悲しくなってきてしまった。
もういっそのこと鈴谷さんが航様を祓ってくれたらいいのに、僕や弓弦様の知らないところで。そんな無責任な考えすら浮かぶ。
「ねえ弓弦様……この人って」
護衛の相手の名前を見て、僕はすぐにピンときた。航様のお手伝いをしていたから久我の事情なら少しだけ分かる。
「ああ、高城櫂士。俺の親父が連れ戻したかった秘蔵っ子だ。俺と兄貴の異母兄弟ってことになるな」
「へえ。そんな人の護衛をすることになるなんて、ご縁はどこにあるかわかりませんね」
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