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「いや、鈴谷のやつは分かっていたんじゃないか。久我の人間なら櫂士を無碍にしないって。そもそも、そこいらにある霊能力者に恋人の護衛を頼むような腑抜けた男には見えないだろ」
「えっと……彼の交際相手を僕たちは護衛しなければならないんですね?うう、責任重大でいやだなあ……」
でも、封筒の中身を見て僕は目を瞠ってしまった。これは本気の額だ。
「だが肝心なのは、兄貴はお前の元にまた現れるっていうことだ」
「覚悟は出来ています。僕も、航様を祓いたい。久我の倒すだけの術しか知りませんでしたが、鈴谷さんなら輪廻に還すことが出来るかも知れない」
「お前、どうしてそこまで兄貴に優しくできるんだ?」
「どうしてでしょう。僕が、久我以外の世界も知ってしまったから……かな」
僕は航様への情を捨て、ただ倒すべき敵として認識できるように徹底することにした。
弓弦様お手製の形代を持たされて、航様と出くわすたびにそれを食わせていた。
「俺は、もうとっくの昔に兄貴のことは諦めてる。和解することも。ただお前のことも知らない他人のことも傷つけて許せない、それだけだ」
弓弦様の作った呪いはいわゆる毒で、「消化不良」になるようなものだ。食べた人間を吸収せずに吐き出させる。根本的な解決にはならないけれど、これで殺される人間は減るかも知れない。
僕らと鈴谷さんは、結局協力関係を結ぶことになった。
いつも素っ気ない言葉しか返ってこない鈴谷さんはどこか陰気な人で一度も笑うところを見たことがなかったけれど、高城さんの『協力したら?』という鶴の一声が決め手になった。僕たちは協力する為にも、何度か会っている。それでも鈴谷さんは冷たい。
「……どうでもいい」
鈴谷さんは高城さん以外には心底興味ないらしく、弓弦様が丁寧に久我の話をしていてもツンと澄ましてある。
「あいつ、櫂士は久我の妾の子だ。俺たちとは異母兄弟にあたる。兄貴が櫂士のところに行く理由はなんとなくわかるだろう?」
鈴谷さんはいかにもめんどくさそうに溜息を吐いた。
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