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「お前、事情を知っててウチに頼んできたんだろ?」
「それは認める。俺にとっては彼が無事ならそれでいい。だから怪異に詳しいあんた達に頼んだだけだ。でも、櫂くんに余計なこと吹き込めだなんて頼んでない」
僕は高城櫂士という人物の護衛を平日五日間付きっ切りでしていた訳だけど、ハッキリ言って退屈な仕事だった。
僕は彼にバレないように隙の多い一般人を尾行するだけ。とっても簡単な仕事だった。
一度、高城さんが襲われそうになったので助けた。僕は彼に久我の跡継ぎにならないか誘ってみたりもしたが、結果は鈴谷さんを怒らせただけ。
護衛の仕事も打ち切られてしまった。でも高城さんは事情を汲んで、鈴谷さんに協力するように促してくれた訳なのだった。
「僕は彼が久我を継げば完璧なのにって思っただけです」
「誘うだけ無駄だよ」
「ええ、でも思うんです。もしも彼が跡継ぎだったら、久我は良くなるかも知れないって」
「幻想だよ。久我は毒だ、誰が跡継ぎだろうといずれ自滅する」
鈴谷さんが言うと物騒なことも真実のように聞こえるから不思議だった。
「こうなったら櫂士にも協力して貰って、四人がかりで討つしかない。あいつもなかなかの素養がある。育ちが一般家庭だから力の扱いを知らないだけで、兄貴より才能があると見える」
「……ちょっと、櫂くんを巻き込むつもり?」
「親父殿はよく高城の家に一条の使者を送っていたようだぞ。現状跡継ぎのいない久我があいつのこと放っておくとも思えないし、そもそも兄貴があいつに固執してる。無関係でいられるはずがない」
櫂くん、鈴谷さんがそう呼ぶ人物……高城さんはとても良い人だった。
作戦会議という名目で自宅を貸してくれて、全くの素人なのに家で事件の話をしながら食事をしても嫌な顔一つしなかった。
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