926人が本棚に入れています
本棚に追加
確かに彼は久我の跡継ぎにしておくには勿体ない人材で、彼は人助けなら好きそうだけど何かを退治したり呪文を唱えたりだなんて世界にいる住人ではなかった。
ただのちょっとオシャレなサラリーマン。そんな彼が僕を眩しそうに見て、笑う。変な気分だった。
「理人くんは今、大学生?」
「はい、と言っても今は通っていないんですけど……こちらの大学に転入するつもりです」
「学校に通いながら探偵の仕事もしているなんて、お洒落だなぁ」
「……お、お洒落? そうですか?」
高城さんはどうやら、とても呑気な人なのだ。
「だって推理小説みたいじゃないか。俺、田舎に住んでたから探偵事務所ってだけで憧れてしまうなぁ」
彼は僕のことを見る時、とても優しい顔をする。きっと誰に対してもそうなのだろう。
僕はどうしてもこの人の良さそうな人をこっち側に引き入れたいという意地の悪い気持ちで手を尽くしたが、ダメだった。何度誘ってもどう誘っても高城さんはいまの生活がいいと言う。
このセンスの良い家具も家電もみんなこの人が選んだものなのだろう。作戦会議に高城さんと鈴谷さんの家を使ったのは、高城さんが誘ってくれたからだった。
みんなで手巻き寿司をしたり焼肉をしたりして、僕は不謹慎にもとても楽しかった。でも一方では意地悪な気持ちもあって、「この人は久我から逃れてこの年まで平和に暮らしていたんだな」というどうしようもない言葉も浮かんだ。
この人の普通さがどうしようもなく妬ましくて、僕はつい態度が悪くなってしまい、弓弦様に叱られた。
「高城さんはどうして僕たちを誘ってくれたんですか?弓弦様は義理のご兄弟ですけど、僕は赤の他人なのに……」
「赤の他人じゃないだろ。もう知り合っちゃったし。連絡先交換したし」
なんとなく鈴谷さんの方に目をやると、やれやれ、と肩を竦めさせていた。高城さんはいつもこういう感じなのだろう。気さくで、友好的だ。邪気の欠片もない。僕とは真逆なその人柄がとことん羨ましかった。
最初のコメントを投稿しよう!