除霊

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鈴谷さんが口を酸っぱくして反芻していたことを思い出す、霊の要求に頷いてはいけない、ひたすら否定し続けることが必要だと。 櫂士さんは足を震わせながらも気丈に言った。 「俺はどこにも行かない」 孤独だな、と思う。 唯一無二のものを望んで化け物になって、航様は人を食らいまくった。もう戻れない。人であり続けることを拒んだ末路がこれなんて、なんて悲しい顛末なんだろう。 「久我航。もう俺の顔は覚えたよね?」 鈴谷さんは甘い声で囁く。優しく、優しく。 「俺が優しく鎮めてやろうっていうのに、どうして俺から逃げようとするの?」 す、す、すずやみなとか。 ああああああ。 うらめしい にくらしい 「……っ!」 影がうねり、予測出来ない動きをして鈴谷さんに迫っていた。 「ちっ……!」 この時、僕でも弓弦様でも鈴谷さんでもなく、すぐ近くにいた櫂士さんが飛び出した。右腕に噛り付かれた櫂士さんが寸でのところで航様の牙を掴み、その舌に小刀を突き立てる。 「……櫂くん!」 鈴谷さんはひどく動揺していた。いつもは無表情の鈴谷さんの表情は歪み、泣き出しそうな子どもみたいな表情になる。 「ミナ! 今のうちに……!」 弓弦様の唇から謳うような声が漏れた、これは合図だ。僕もそれに倣い歌う。久我の教えではお経は習わない、これは祓い歌だ。僕も声に力を乗せて、鈴谷さんが動きやすいように祈る。 「お前は祓う、絶対に許さない」 僕は鏡を航様に突き出した。浄化の光を受けて悲痛なうめき声が響く。効くのだ、それが分かって僕の手にも力が籠もる。 「人間に戻りたいか? 答えろよ久我航。輪廻に戻りたいか?」 低く響く鈴谷さんの声に、僕がつんと切なくなる。 人間としての生を航様は望まなかった。妖怪の肉や血を啜り、僕のことも……。 航様の行き先はきっと天国じゃない、地獄だ。
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