初恋の人との再会

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弓弦、弓に張る糸と同じ意味のその名は、困難に立ち向かうしなやかさを願った名前らしい。僕はこの人にピッタリだと思う。 ガサツなようで律儀な僕の好きな人は、いつも僕が来ることを見越してクッションもコップも一つ多く用意してくれていた。弓弦様の淹れてくれたココアの甘さと湯気と、そっと微笑んでくれる笑顔。僕は航様に身体を弄繰り回されて疲れ果てた時、よく弓弦様の部屋に遊びに行った。 いつか死ぬ時がきたら弓弦様の傍で死にたい。 そんなことを言ったらまた怒られてしまうだろうから言えないけれど、それくらい大袈裟に、僕は弓弦様の部屋にいるこの時間が大好きなのだった。 時々、弓弦様の部屋で眠った。 屋敷のどこにいても寝苦しいので自分の部屋から出てフラフラと中庭を歩いていたら、弓弦様に呼び止められたことがあった。丸い月、ぼんやりと明るい雲の陰影。時間は深夜だ。 真夜中に弓弦様がブツブツ誰かと喋っていると思ったら、相手はなんと妖怪だったらしい。僕が見た子どもくらいの背丈の人物は、僕が近づくや否やヒュンと立ち去ってしまった。 「ええと、今のは?」 「あれは小鬼だ。山が荒らされているらしくて相談されたんだ」  弓弦様は陰陽師一族の末裔で、本来なら妖を祓う立場なのに良くこうして妖怪と一緒にいるところをお見かけする。僕はなんだか心配になって言った。 「弓弦様は妖怪がお好きなのですね」 「いけないか? どうせ俺は跡継ぎじゃないんだし、お前が黙っていればバレやしないさ」 久我家の跡継ぎは弓弦様の双子の兄である航様だ。僕の将来お仕えする航様と僕の大好きな弓弦様のお顔はよく似ている、でも性格は全く似ていない。二人とも僕に優しかったけれど、二人の家というものに対しての姿勢は全く正反対のように思える。 「僕、誰にも喋りませんよ」 それはなんだか、秘密を共有しているようでワクワクした。
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