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1ヵ月が経過したあるとき。
その日は突然やってきた。
「な、なぜだ……金が入ってこない」
頭には大輪のタンポポが咲いているのに、1円も金銭が舞い込むこともないまま、花はしおれてしまった。
豪遊三昧、ギャンブル三昧の生活が日常化していた俺は、「どうせタンポポが咲くんだから」と貯金もしておらず、暴落した株価を前にひざを崩折れた。
所持金が底をつき、住む場所も失って、転落した俺はいつしか「路上」で生きていた。
地面で暮らすようになった俺に残ったのは拾った「携帯ラジオ」のみ。
公園には俺のように、金で失敗した路上生活者たちが、地べたに座りこんでいた。まるでここは、ホームレスのたまり場だ。
みな、人生に疲れ果てたのだろう。道端のあちらこちらで、背中を丸めてぐったりしている。全財産を失えば、生きる気力も体力もなくなるのも当然。俺だって同じだ。
ある日、ブランドの紙袋をたくさん抱えた老婦人が俺の前を横切った。
「……ばあちゃん?」
それは、中世の貴婦人みたいな羽飾りの帽子をかぶったばあちゃんだった。
英国の王妃が着ているようなレディーススーツに「それはいったい何カラットですか」と問いただしたくなるほどの、巨大な宝石のブローチを胸にあしらっている。
「カズオ、そんなところで何をしているんだい」
田舎で暮らしているはずのばあちゃんが、なぜ東京でショッピングを――。
「その派手な格好、どうしたの……」
すると、ばあちゃんは俺に耳打ちをした。
「ついたんだよ、あたしにも」
帽子をとると、ばあちゃんの頭頂部には、きらきらと光り輝く黄金の綿毛が生えていた。
「ほぉら、きれいだろう……」
恍惚とした表情のばあちゃんが、俺によく見えるように、お辞儀して頭頂部を向けると、少し離れた場所で佇んでいるホームレスの男に目がとまった。
何日も腹を減らしているのだろう。ほおの痩せこけたそいつもまた、ぐったりと首をうなだれて、縁石のふちに腰をかけたまま微動だにしない。
「……え」
そいつの足元に目線をずらした瞬間だった。
俺は衝撃ともに目の前が真っ白になるーー。
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