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「靴底から……根っこが……」
男の足裏を太い根が突き破っていた。
それはアスファルトへと続いていて、地面の割れ目に食いこんでいる。
まさかと思い、俺は男にかけよった。
「生えてる……」
頭には俺と同じく立派な「黄金の綿毛」が生えていた。
「うわっ……」
気がつくと地面には、いつの間か増殖したタンポポの群生が、俺の足元にやたらと絡みつくように咲き乱れていた。
≪次のニュースです≫
俺の携帯ラジオからアナウンサーの声が流れてくる。
≪タンポポの異常繁殖が全国で問題となっています。環境省はタンポポが今後の生態系を大きく脅かす恐れがあるとし「事態は危機的状況にある」と警鐘を鳴らしました≫
その後、専門家のコメントがつづく。
≪タンポポは非常に生命力の強い生物です。綿毛というのは、着地した場所に根を張ると、地中の真下へ向かって、ぐんぐんと根を伸ばそうとする習性があるのです≫
専門家はコメントを続ける。
≪タンポポは、綿毛をとばすことで仲間をふやし、全国に分布の範囲を拡げます≫
静かな風が吹いた。
路上者たちの頭から一斉に綿毛が舞い上がる。
彼らはみな地面に足裏をつけ、くたびれた植物のようにだらりと座りこんでいる。
俺は……ずっと疑問だった。
黄金の綿毛はなぜ、人間の頭に着地したのか。
なぜ、巨万の富をくりかえしもたらしたのか。
なぜ、人間の金銭感覚を狂わせ「路上生活」へ引きずり下ろしたのか――。
「あっ……」
足をどけると、俺はまた知らぬ間にタンポポの花を踏んでいた。
次の瞬間、地崩れするような爆音が背後で鳴り響いた。
俺の周辺一帯が、一瞬にして大きな影に覆われる。
後ろを振り向くと、道端には一輪のタンポポが咲いていた。
路上者たちの養分を吸って巨大化したその花は、乾いたアスファルトを突き破り、太い茎をのばして、上空から俺を見下ろす。
専門家はコメントを続けた。
≪素朴で慎ましい花ですが、地面から養分をたっぷりと吸うので、人間にどんなに踏みつぶされようと、タンポポという雑草は決してくじけません≫
「まさかお前らは……人類を……」
いつの日かポケットに押しこんだ漢方薬。
ポケットへと手をのばしたとき、
俺の足裏を、
なにかが突き破る音がした。
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