1話 『恋人』

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 授業中。  時はいつものように、淡々と流れていく。  教師が黒板をチョークで叩く音は、どうしてこんなにも眠気を誘うのだろうか。因みに、私の学力は中の中で、朔也とは違って夏休み前のテストは憂鬱でしかない。彼みたいにすっかり夏休み気分になるには、やっぱりテストを全て終えた後だろうと思う。  眠気に任せて、机の上で組んだ腕の中に片方の頬を(うず)め、窓の外を眺めた。揺れる木の葉に合わせるように、さわさわと、後ろから冷房の程良い風が髪を揺らし、追い討ちをかける。 (花火大会に、二人きりで花火。プールに海に川に、旅行、かぁ…。いいなぁ………)  夢見心地に、そう思う。  やっぱり、私は今、夢の中にいるのかもしれない。だとしたら、起きたく無いなぁ……なんて。
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