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6話『まだ届かない人』
1.霧峰 律
ガタンゴトンと揺れる電車の中で、時々、咲桜の肩が律の肩に触れた。
「あ、ごめん」
その度にはっと目を覚ます彼女は、ひと拳分程、律から離れる。少しだけ遠ざかった彼女のことを、名残惜しそうに眺めていた律は「大丈夫ですよ」と、感情を乗せずに口にした。
「肩、使いますか?」
「いやいや! 大丈夫っ! ごめんね、うたた寝しちゃってた」
「いいえ。……寝れて無いんですか?」
踏み込み過ぎかな。どうかな。ーーー律は誤魔化すように自身の長い黒髪に触れる。
咲桜とは違うシャンプーの香り。先程、咲桜から良い香りがしていて、律の心臓は煩いくらいに高鳴っていた。
下る電車は、広島方面に向かっていた。移り変わっていく景色を写す窓。トンネルに入ると、咲桜と律の顔が横並びに写る。
ーーー結局、写真部での遠征は参加者が集まらず、律と咲桜の二人だけで写真を撮りに少し足を伸ばしてみようかと言うことになった。
「うー…ん。夏休みに入っちゃったから……」
「……」
質問に対して正しくないようなその回答を、律は、「遂に朔也に会えないままになったから、気掛かりで、眠れない」と、続くのだろうと予想した。
「あいつ、まだ逃げてるんですね」
「……逃げてるのは、私も一緒だよ」
何から?一体、先輩は何から逃げる必要があると言うのか。もやもやとした感情を自覚する。しかし、律はそれを口にしなかった。
在来線を乗り換えて、再びガタンゴトンと揺られ、遂に宮島口に着いた。
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