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「渚はさ、告白とか……しないの?」
「ンンッ!」
食後のケーキを一口食べた後の出来事だった。
もう少しで変なところにケーキが落ちていくところだった渚は、慌てて咳をした後、お冷やを飲んだ。
「な、にを……」
「渚がずっと誰を好きなのか、わかってるよ」
「……」
目を泳がせても、真っ直ぐに見詰める咲桜の視線に、結局また、彼女と視線を合わせてしまう。
「……男だから」
「それが?」
「相手も、困るだろう……」
「へぇ……。東条渚は、そんなことを気にするんだ?」
ちょっとイタズラっぽく笑った咲桜の顔に、既視感を覚える。ああ、咲桜は、そうやって笑う女の子だったな。ーーー自分の知っていた咲桜が、そうして少しずつ顔を出すのが、感慨深く、嬉しかった。
「私は気にしなくても、相手が気にするよ」
「そうかな? 気にしてるのは、渚の方じゃない?」
「……」
ゆっくりとコーヒーを味わった後、飲み下す。
「あいつには、……好きな人がいる」
「あ、」
「………だから、言わなくていい」
斜め下に視線を落とした渚の、その長い睫を見ながら。言い淀んだ咲桜は、一度唇を噛み、告げる決意をする。
「……その人の、好きな人は、……彼に恋愛感情を抱くことは無いから」
「……」
「だから、………渚は、渚の幸せを、どうか、諦めないで……?」
困ったように笑う幼馴染に目を向けた。
ああ、そんな顔もよくしていたな、と場違いに思う。
咲桜はーーー渚にとって、夢のような女の子だった。可愛くて、元気で、儚くて、弱くて、強くて……守ってあげたくなる。けれど、そうやって守られているのは、自分の方では無いかと思う時がある。或いはこの気持ちは、偶像崇拝にも似ているのでは無いかと思ったりもする。
ーーー好きな人の、“好きな女の子”。
だって。敵う筈がない。叶う筈がないのだ。
そう、思う。
ゆっくりと目を閉じて、開いた時に、渚は微笑んだ。
「………本当は今日。夏祭りに行く時につける、髪飾りを見たくて」
「そうだったの? じゃあ、今から行こうよ!」
咲桜はにっこりと笑顔になり、さっさと片付けるように大好きなスイーツを食べた。渚の先程の沈黙をどう捉えたのだろうか。渚にはわからない。
「………花火の日、咲桜は本当に、行かないのか?」
踏み込んでも良いのだろうか、と思うことも、いつも結局、踏み込んでしまう。ーーーその役目が、自分だと思っている。互いに、気遣いはするが、遠慮はしない。本当の事を言うから、いつだって信じ合える。そんな関係に自分達はいるのだと、渚はそう、思っている。
「……うん。花火を、一緒に見ようと……約束した人が居て……」
「……」
「……その人と一緒に見ることは、もうきっと無いんだろうけど。でも、そろそろ、逃げるのを辞めなくちゃ」
今度は曖昧な笑顔ではなかった。
ほら、と渚は思う。ほら、咲桜は、強い子なのだ。
「そうか。……咲桜の決意がどんなものであれ、私達は、応援する」
此処に居ない勇志の気持ちも代弁すると、咲桜はまた一層、笑みを深めた。
「ありがとう」
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