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どいつもこいつも、好き勝手言ってくれる。
本当に何事もなかったかのように、律は俺と二人でいつものように夕飯を食べ、さっさと食器を洗うなり、隣の家に帰って行った。
いつものように断りもなく沸かされた湯船に浸かり、顔を洗う。
律の件に派生して思い出すのは、咲桜先輩の幼馴染ーズの二人の先輩の事。
『私は、律が幸せなら誰と付き合っていようが構わないんだが。幸せにするつもりがないなら、時間の無駄だからさっさと別れてくれないか?』
いけしゃあしゃあと言い放つ、普段から涼しげな顔をした先輩。それに対して、驚き、少なからず傷付いていた俺が何も言葉を紡げないでいる内に、彼は言葉を重ねた。この人、言葉のキャッチボールってものを知らないのか?
『お前には本当に、感謝している。でも、それだけだ。もしこの先、咲桜を傷付けるようなことがあれば、私は一生お前を許さない』
『……』
傷付けるって、もう手遅れなんじゃないか?と、その時は思った。それとも、振られた後に、俺がストーカーと化すことを危惧しての言葉なのかも知れない。
『……いいんですか? 別れたら、森本センパイ、咲桜先輩に告白するんじゃないですか?』
『……そうかもな。でも、それも悪くはない…』
『嘘つき』
他人の嘘なんて、直ぐに分かる。俺は、嗤った。
自己防衛本能の強い俺は、俺の事を傷付けに来た人間に容赦はしない。
『本当は、森本先輩の幸せなんて願ってないくせに。偽善者』
『……』
『自己犠牲は、ほんの少しも、美しくないですよ。それが強がりから来るんなら、尚更。後悔しますよ』
俺は席を立つ。
この人からは、同じ香りがプンプンした。普段は何考えているのか読めないが、今は、読みやすい。つまり、ブーメランである。どの口がそれ言ってんの?とセルフツッコミせざるを得なかったのは、いつも読めない、手厳しいこのセンパイが、押し黙って言われるがままになっているからだ。………俺こそ、言葉のキャッチボールを知らない。
『誰の手によってでも、自分の手以外で幸せになる姿なんて見たくないくせに』
巨大なブーメランに少なからず自分もダメージを受けて。
それでも、表情には出さずに、タンッと千円札を机に置いた。立ち去ろうと向きを変える。目の前の先輩は唇を真一文字に結びながらも、能面のような顔をしていた。
『……それがお前の答えなら、もっとやりようがあるんじゃないのか?』
最後の一撃。
目を合わせれば、俺のブーメランなんてお見通しだと言わんばかりに笑っていた。ーーーほらっ!喰えないセンパイめ…。
それは、立ち去る俺のことを引き留める言葉ではなかった。
それは、きっと、俺の背中を押す言葉だった……。
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