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旧家の令嬢
鮎子は今日も袴に着替える。髪は侍女のお蘭に結ってもらい一纏めにする。
鮎子の家は日本で指折りに入る華族である。室町時代から続く旧家であり、父は大日本帝国軍の総司令官母は華道の家元である。
「鮎子お嬢さん」
そう声をかけてきたのは侍女のお蘭。桃色の麻の着物に白のフリルエプロンをつけている。髪は密編みだ。両親をなくしこのお屋敷に拾われたのだ。鮎子より3つ年下の14才であり、鮎子と一番親しくしている。
「お蘭、お嬢様でしょ。」
「もうすわけごぜえません、わたす」
お蘭は東北の田舎で育ったのだ。
「わたすじゃなくて私。」
「へい、いってらっしぇいませお嬢様」
片言な見送りを受けると人力車で女学校へと向かう。
女学校に着くと少女雑誌を取り出す。「少女画報」だ。ファッション特集や西洋のプリンセスの挿し絵、少女歌劇の特集など乙女達が好きそうな物がつまっている。鮎子はファッション特集を見る。マダムリーズのお店のドレスやワンピースが載っている。
「ごきげんよう」
そこに流行好きの春子が登校してきた。春子は髪に緑色の絹のリボンをしている。
級友達の輪にいる春子に鮎子は歩み寄る。
「ごきげんよう春子さん」
「ごきげんよう鮎子さん」
挨拶もそこそこに少女画報を見せる。
「春子さん、そのリボン、マダムリーズのお店よね。」
「ええ、昨日買いに行ったの。私が贔屓にしてるお店よ。貴女もマダムのファンですの?」
「ええ、実は。」
「宜しかったら一緒に行きましょう。ねえ、今日の放課後どうかしら?」
春子の誘いは嬉しかった。マダムリーズのお店には一度行ってみたかった。でも
「ごめんなさい。春子さんのお誘いは嬉しいけど今日は日舞の先生がいらっしゃるの。」
鮎子は女学校が終わると習い事の先生が自宅にいらっしゃるのだ。今日は日舞、明日はお琴、それから明後日はお茶。平日は何かしらのお稽古事が入っている。
「では土曜日ならどうかしら?」
休日なら特に予定はない。
一瞬両親の険しい顔が浮かんだか魅力的な誘惑には勝てない。
「ええ、是非。」
「絶対よ。鮎子さん」
放課後鮎子は上機嫌に帰宅する。
「お帰りなさいお嬢様」
お蘭が出迎えてくれる。
自室に戻るとお蘭が着物に着付けてくれる。
「お嬢様、今日学校で何かいいことありましたか?
「ええ、実はね。」
鮎子は今日学校で春子と約束したことを話す。
「まだむりーずって今噂のですか?」
「ええ。」
「羨ましいです。いつかあんな素敵なお洋服いつか着てみたいです。」
「じゃあお蘭にも何か買ってきてあげますわ。でも誰にも言ってはいけませんわ。」
鮎子とお蘭が和やかな雰囲気で話していると女中が入ってくる。
「失礼致します。お嬢様、日舞の先生がお見えです。」
「わかったたわ。今行くわ。」
鮎子はお蘭にまた後でねとだけ言うと下の階に降りていった。
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