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「継実、ちょっといい?」  有志に呼び止められたのは、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴って、皆が解散した後だった。この後は各自別れての掃除の時間となっている。  教室に散らばった他のメンバーの視線を気にしている素振りを見せながら、席が隣り同士というのを利用して有志は声を掛けてきた。 「なに?」  思わず声を潜めて返事をする。その様子に有志は小さく笑って、大丈夫だよ、皆には聞こえないと散り散りなって行動する面々を指した。  たしかにそうかもしれないが、なんだか秘密めいたものを感じてしまったのだから仕方ない。 「継実さぁ、本当は付き合ってる人いたりする?」 「え?」  思わぬ質問に相手の顔をまじまじと見つめてしまった。  西田有志は入学式早々、持ち前の人懐っこい性格を発動させて声を掛けてきた強者だ。  さっき集まっていたメンバーの中でも、この目の前の人物だけがあっという間に自分のことを名前で呼び、そのうえ逆のことも要求してきた。今でこそ慣れたが、最初は大いに戸惑った記憶がある。 「継実? 聞いてる?」 「あ、ああ。聞いてる」 「で? どっち?」 「なんで?」  質問に答えることは簡単だ。  付き合っている相手はもちろん、そんな相手が欲しいとすら思っていない。  そんな本音を漏らせば、目の前の彼女出来立ての男はどんな顔をするだろうか。 「なんでって、知りたいから」 「知りたいからって……」 「そんな警戒しないで。大丈夫別に他の人に、特に宇野たちに、話したりしない」  継実の抱いた不信感を見透かしているかのように有志は笑う。しかし問われる理由がまったく理解できず、継実は有志を見る視線に力を込めた。
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