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「じゃあ、質問変える。三組の一橋茜音って知ってる?」
三組? 一橋茜音? 一つ一つの単語を反芻しながら継実は記憶を探る。
「知らないみたいだね」
行動を止めて考える継実の表情から答えを引き出したようで、有志は満足そうに笑った。
「その人が?」
「うん。その子が継実のこと、気になってるんだって」
「――からかってるのか?」
「どうしてそうなるんだよ」
告げられた内容に困惑し、ついきつい物言いになる継実とは対照的に有志はお道化たように両手を開いて頭を振った。
「一橋さんはひとめぼれってだって言ってたからたいした接点はないかも、とは思ってた」
ひとめぼれ? たいした接点もなく、人を好きになったりできるのか? 継実にとってはすべてが謎だ。
「それで一度、継実と話してみたいって。だからあんまり難しく考えなくていいと思うよ?」
いや、それはどうだろう? 一度話してみようとみまいと、そこに何の解決があるというのだろう。そもそもどうして有志がそんな話を持ってくるのだろう。次々に生まれてくる疑問を口にする気にもなれず、継実はきつく唇を結んだ。
「継実? もしかして付き合ってなくても好きな子はいるってこと? だったらごめん。今のは忘れてくれていいよ」
好きな人? そんなものはいない。それなのに有志はどうしてそんなことを言うんだろう。気遣わし気な声を聞きながら、継実は考える。
「そんなに不満そうな顔しないでさぁ」
「いや……」
一体何に対しての否定か判断に困る返事をした後で、継実は慌てて有志に向き合った。いつもこうだ。誰に対しても、なにをどう伝えるのが最善か考えているうちにタイムアップを迎えてしまい、結果碌な返事も返せない。
人付き合いが決して得意ではない自分に対しても、臆面なく接してくれている有志もそのうち呆れてしまうに違いない。そんな未来が見えるのに、それでもまだ続く言葉は出てこない。
「でも夏祭り、一緒に行きたい相手は、いるんだよね?」
「え?」
驚いて、そのままの勢いで有志の顔を凝視した。悩む自分とは対照的に、有志は呆れる様子もなく、それどころか楽しげににこにこと笑っている。
「な、なんでそう……思った?」
文字通り絞り出すような継実の問いに、有志は細めていた目を開けた。
「うん、勘かな。で、カマかけたら継実が見事に引っかかったからあたりだったみたい」
「勘……?」
「そうだよ勘。で? その子は可愛い子? やっぱり他校の子かな? 継実と同じ中学?」
「待て! 待てって、有志。そもそも女子じゃない」
矢継ぎ早に言葉を重ねる有志に負けぬように継実は精一杯の声を上げた。
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