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 なんでそうなったのかは不明だが、有志はとんでもない勘違いをしている。だってトラは背丈は十センチ以上高いし、年だって五つも上の、成人男子だ。 「え……? 相手、男?」 「そう。こーんな背が高くて、がっつり日焼けしてる五つ上の!」  継実の身振り手振りを加えた説明に、さっきまで勘の良さをフルに発揮していた有志は、途端にハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。 「……付き合っては、いないんだよね?」 「え?」 「べ、別に偏見とかはないんだけど……驚いて」 「いや、付き合いは結構長い。なにせ幼馴染だから、かれこれ――」 「え? 幼馴染? それって、ただの、幼馴染?」 「? そうだけど? なに?」 「ううん、別に。その人がお祭り一緒に行ってくれないって? それってどういう状況? 幼馴染なんだよね?」  継実の両腕を掴み有志は一気に捲し立てるように喋る。こういう有志は苦手だと、継実は少しずれたことを考える。この場合、どの質問から答えるべきなんだろうか。まずそれがわからない。 「高校の友達と行けと言われた」  必死考えた返事を、有志はたっぷり時間をかけて受け取ったようだった。いつもならすぐに何かしら返してくるはずなのに、今回はやけにぱちぱちと瞬きを繰り返している。 「……継実、やっぱり一橋さんと話してみない?」 「なんで?」  頭の回転の速い有志が導き出した答えの動線が見えない。  相手はそんなことなどお見通しなのだろう、それが証拠に目が合えば、少したれ目の人のよさそうな目を眇めて継実を見た。 「じゃあ、言い方変えるね。継実、オレの顔立てて? 一橋さん、美雪(みゆき)の友達なんだ」  美雪って誰だ? 無意識に顔にそう書いてあったのかもしれない。有志が、さっき聞いてなかった? とつぶやく。 「美雪はオレの彼女」  散々盛り上がったグループ内の会話に参加していなかったことを、暗に指摘されてしまった。もっとも継実が上の空だったことなど、有志なら疾うに知っていても不思議はなかったが。 「いいけど。継実のそういうところ、結構好感持てるって思ってるから。ね? というわけで、よろしく頼みます」  胸の前で小さく手を合わせる有志の手を軽く弾く仕草をしながら、継実は目を伏せた。正直、有志の頼みを断ることには抵抗がある。しかしそれ以上に、自分に好意を持っているという相手に対峙することのほうがハードルは高く、気持ちは一直線に重くなった。
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